スシローおとり広告 問題の背景は

回転寿司最大手「スシロー」を経営する、あきんどスシロー(大阪府吹田市)は6月9日、消費者庁から「おとり広告」に該当する景品表示法違反が認められたとして、措置命令を受けた。



 例えば、高級品である「うに」が110円(黄色い100円皿)の超低価格で提供されるとあって、顧客たちが喜んでスシローに乗り込んだら品切れだった。そして、肩透かしを食らった人々の怒りが爆発。「テレビの華々しいCMは何だったのか」とクレームの嵐に。消費者庁としても見過ごすことができなかった。

 おとり広告とは、「商品・サービスが実際には購入できないにもかかわらず、購入できるかのような表示」で、景品表示法の不当表示として規定している。

 スシローでは、販売数が足りなくて売り切れるリスクを懸念してか、キャンペーン商品などに「売り切れ御免」と表示するケースがある。しかし、消費者庁では「売れ切れ御免は、なくなっていたら許してくれという意味ではない。早く注文しないとなくなってしまうと煽る文言だ」としている。売り切れ御免は販売促進にしか働かないというのが、消費者庁の見解だ。

 スシローの店は同業他社の店と比べても、普段から商品を切らしていることが多い印象がある。つい先日も、とある店では午後3時に「生うに」と「鶏せせり唐揚げ」が切れていた。できればディナー時間が始まる午後7時頃までは持たせてほしかった。

スシローが「おとり広告」を行ったと認定されたのは、次の3品だ。

 1つ目は、21年9月8~20日に実施したキャンペーン「世界のうまいもん祭」で提供した19品のうちの「新物!濃厚うに包み」(110円)。

 通常、スシローに行くと、うに(生うに)は330円の黒い皿で提供されている。それが3分の1である、黄色い皿で110円という特価で販売されるのだから、わざわざ遠いところから家族総出で繰り出したケースもあっただろう。

 店に到着して、「うには売り切れていました」と店員に言われた時の“がっかり感”はとても大きいものだったと想像される。筆者自身は、うににそこまでの執着はない。スシローは旬のネタをそろえたフェアー商品が豊富なので、他に面白い商品があればそれを食べようと切り替える。しかし、全員がそう割り切れるわけではない。食べ物の恨みは恐ろしいのだ。

 2つ目は、同年9月8日~10月3日のキャンペーン商品、「匠の一皿 独創/とやま鮨し人考案 新物うに 鮨し人流3種盛り」(528円)。こちらも、うにである。

 3つ目は、同年11月26日~12月12日に実施したキャンペーン「冬の大感謝祭 冬のうまいもん」で提供した9品のうち「冬の味覚!豪華かにづくし」(858円)。

 6月17日、同社の親会社であるFOOD&LIFE COMPANIESは「一部報道に関するお知らせ」というニュースレターを発行した。そこには、「報道の中で『詐欺』という表現や『過去からも意図的に繰り返し行ってきたのでは?』とご指摘をいただくことに、従業員一同大変心を痛めている一方で、今回の件の事の重大さを改めて痛感し、猛省しております」と書かれてあった。

 また、「現在も、大変多くのお客様からお問い合わせや、がんばれといった応援のご連絡をいただいており、この度交付された措置命令の重大さを改めて実感しております」ともあった。

 総じて文面から伝わるのは次のようなことだ。社内では、売り切れ御免の態度に対して、一般のユーザーの反応は温かくて励みになる。一方、報道は冷たくて傷つくものだと受け止めている。報道は消費者庁の発表をもとに、時には被害を受けた消費者の声を代弁するために、法的措置について取り上げるので、スシローから見れば言い過ぎと思われる厳しい表現になりがちだ。

 報道がおとり広告について厳しく取り上げた後も、スシローの店舗は相変わらずにぎわっているようだ。ニュースレターからは顧客から支持されているという自信も垣間見られる。うにやかににさほどの思い入れのないユーザーにすれば、スシローは依然、安価で満足度の高い寿司を提供してくれるチェーンだ。私の知人にも「スシローは最近、混み過ぎていた。人気が落ちて空いているなら行ってみたい」と言っている人もいたほどだ。

つい最近も、キャンペーン商品ではなかったが、とある店で「店内茹で本ずわいがに」(330円)をタッチパネルで注文したところ、品切れで提供できないと店員が謝りに来た。

 また、先述した別の店では生うにと鶏せせり唐揚げが入荷待ちで提供できないと、店の外に張り紙がしてあった。実際に入店すると、「鮮魚3貫盛り」「たい」「漬けごま真鯛」「しまあじ」など、計10品ほどの商品が品切れを起こしていた。午後9時頃と遅めの来店ではあったが、生うにと鶏せせり唐揚げ以外は店の外に品切れの告知もなく、タッチパネルを見るまでは分からなかった。閉店するのは午後11時なので、来店した時間も悪かったが、ちょっと多過ぎるのではないだろうか。

 繰り返すが、消費者庁ではキャンペーン商品ならば大々的に宣伝している以上、売り切れ御免はあり得ないとしている。

 これだけ品切れが頻発すると、現場の感覚も麻痺(まひ)してしまって、宣伝を強化しているキャンペーン中の商品であっても気にならなくなるのも、むべなるかな。

 前出のニュースレターによれば、おとり広告に認定された3品について、販売経験から算出した数量を上回る注文があったのが原因としている。しかし、実態は毎日のように仕入の需要予測が外れている。

 おとり広告に認定された3品のケースをもう少し詳しく見てみよう。

 「新物!濃厚うに包み」においては、9月14~17日、ほとんどの店舗で販売を停止した。キャンペーン実施期間中、早期に完売する可能性があると判断したための措置だった。

 販売を途中で止めた店は、国内594店中584店。実に98%の店に及んだ。

 「匠の一皿 独創/とやま鮨し人考案 新物うに 鮨し人流3種盛り」では、9月18~20日の販売を停止した。これもキャンペーン実施期間中、早期に完売する可能性があると判断したための措置だった。

 販売を途中で止めた店は、国内594店中572店。こちらも96%の店に及んでいる。

 「冬の味覚!豪華かにづくし」に関しても、予想を超えた売れ行きとなってしまい、早期に完売した店舗が発生。一部店舗においてかかる表示を中止するなどの措置を講じていなかった。

 販売を途中で止めた店は、国内604店中581店。これまた96%の店が該当する。

 そればかりでなく、フライヤーの修理がコロナの影響で間に合わずに、最初から提供していない店が3店あった。スシローとしては前出ニュースレターで、店頭に「設備故障により販売していない」との告知をしていたから、最初から販売する意図がなかったとする一部報道に対して事実と異なる旨、反論している。

 しかし、かにを目当てに来た顧客にしてみれば、店に来てはじめて提供できない事情を知るのでは、釈然としない。「詐欺」と断定するのは言い過ぎにしても、「だまされた」と思う人も出てきてしまう。消費者庁では、「一般消費者が店舗で販売していないと知る由がなかった」としておとり広告だと断定している。

前出のニュースレターを読むと、景品表示法違反「おとり広告」の要点である「販売できない状態なのに、なぜ広告・宣伝を止めなかったのか」に関する記述がないのは気になるところだ。

 消費者庁は、キャンペーン商品を諸事情で販売できなかったことではなくて、販売していないのに宣伝し続けたことを問題にしているのだ。その点が正確に把握されていないのではないかと思えてしまう。

 極端なことをいうと、キャンペーン商品の仕入の需要予測が外れまくってもいい。そして、大々的にテレビやネットで宣伝するから、需要予測が外れて商品を切らすと、来店した顧客の中には詐欺的に感じられる人も大量に出てしまう。

 また、店頭でかにを「設備故障により販売していない」と告知をしていたからといって、かにの宣伝を継続していた事実があれば、不当表示が免責されるわけではない。法律は、本当は売りたかったけど売れなかったという、店舗側の気持ちを問題にしてはいないのだ。

 日本広告業協会は、「放送局には各局でキャンセルの規定が決められている。通常、タレントの不祥事でCMをキャンセルする場合は、代わりにACジャパンの広告が流される」としている。

 スシローも販売の取り止めを決定した時点で、キャンセル料をTV局に支払えば、広告を止められたはずだ。スシローのような大量出稿するクライアントに対しては、テレビ局も条件を緩めてくれるケースもあるそうで、個別の交渉次第だ。

 自社公式サイトでの宣伝は、代理店に事情を伝えるだけで、もっと簡単に止められた。

 しばしば外れるキャンペーン商品の需要予測に合わせて、キャンセル料も織り込んだ販管費予算の策定が必要ではないだろうか。

最終更新日:6/25(土)6:30 ITmedia ビジネスオンライン

引用:https://news.yahoo.co.jp/pickup/6430558

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