連載『#父親のモヤモヤ』
およそ3年前。30代会社員の男性は、職場の上司に育児休業を取りたいと告げました。期間は妻と話し合って決めた2週間。社内では育休取得が呼びかけられていました。ただ、実際にどんな反応をされるのかこわさもありました。「あっちで話そうか」と促す男性上司。不安を抱えて案内された別室で、思わぬ一言がかえってきます。(朝日新聞記者・高橋健次郎)
「本当に2週間でいいの?」「遠慮しているんじゃないのか?」
男性の上司は意外にも、そうかえしてきました。
聞けば、男性にも子どもがいて、過去に半年間の育休を取ったそう。自身の子育てを振り返りながら、男性の育休取得が2週間でよいのか、何度も念押ししてきたそうです。
「ありがたい話ですが、妻とも相談してきておりまして…」。そう応じる男性に、上司は言いました。「奥さんと、もう一度相談したら?」
夫妻は2週間の結論を変えませんでした。家計のやりくりを考えた上での判断とあらためて伝えました。
男性は当時の男性上司の言葉について「家庭も大切にしてよいのだと、安心感を得ました」と振り返ります。妻も「夫を通じて、妻である私も、家庭も気に掛けてくれる。従業員を単なる歯車ではなくて、大事にしている会社なんだと受け止めました」と話します。
「育休は2週間でしたが、『妻1人では立ち行かない、倒れてしまう』ことは実感しました」と男性は話します。命を預かることの重み、子育てのままならなさ――。2週間で多くのことを感じました。
育休が明けた後も、主体的に家庭に関わっています。週の半分程度は在宅勤務で、そうした時は夕食作りから関わります。妻は、「夫は子どもが生まれてから、自分自身のことは差し置いて家庭を最優先にしてくれています」と話します。
10年前に1%台だった男性の育休取得率は、2020年度に10%を超えました。取得が進みつつありますが、8割程度の女性と比べると大きな差があります。夫妻は「私たちの体験が伝わることで、よりよい環境づくりにつながれば」と話します。
育休を取得しやすい職場づくりは、中小企業でも可能です。
従業員約150人の建築金具メーカー「サカタ製作所」(新潟県)では、2018年度から「男性育休100%」を続けています。
上司の働きかけや脱「属人化」はもちろんですが、前段階として「業務の棚卸し」も行いました。部署間で重なっていたり、不要になったりした業務を洗い出し、仕事量を減らすことから始めたのです。大企業に比べ、より「人手不足」が指摘されがちな中小企業だからこそ、必要な業務の見極めが鍵を握ります。
今年10月には、子どもの生後8週間以内に最大4週間まで父親が育休を取れる「男性産休」の仕組みもスタートします。母体にダメージの残る出産直後に父親が関わりやすくするねらいで、出産時と退院後を想定し2回に分けて取得できるようになります。
子育てしやすい職場は、結婚や介護、療養など、それぞれの事情にあわせて働きやすい職場でもあると思います。
今後いっそう取り組みが前進することを期待しています。
※この記事は、朝日新聞「withnews」とYahoo!ニュースとの共同連携企画です。
最終更新日:6/22(水)16:00 withnews