2022年5月2日発売の「日経トレンディ2022年6月号」では、「2022年上半期ヒット大賞&下半期ヒット予測」を特集。近年、カプセルトイが盛り上がりを見せ、第4次ブームが到来した。専門店が増えたことをきっかけに、「売り場→メーカー→商品」という好循環が勢いよく回り出したためだ。消費者の心をつかむカプセルトイブームを解析した。
※日経トレンディ2022年6月号より。詳しくは本誌参照
広い店内を覆い尽くすかのような無数のカプセルトイ自販機。ここはバンダイナムコアミューズメントが2021年2月にオープンしたカプセルトイ専門店「ガシャポンのデパート 池袋総本店」だ。記者が訪れた22年4月上旬、30代以上とおぼしき大人や子供連れの親が楽しそうにハンドルを回し、店はにぎわっていた。
近年、カプセルトイが盛り上がりを見せている。日本ガチャガチャ協会の小野尾勝彦氏は「市場規模は右肩上がりで、21年に過去最高の450億円に達した。22年はさらに伸びる」と見る。小野尾氏によると現在は第4次ブームに当たり、「今後は大人向けのエンタメとして定着する」と話す関係者もいる。
カプセルトイ人気の背景にあるのが、売り場の変化だ。特に新型コロナウイルス感染症が拡大した20年以降、冒頭で紹介したような大型専門店が全国で存在感を強めている。この専門店が大きな原動力となり、売り場→メーカー→商品の3つを巡る好循環が勢いよく回り出したのだ。専門店の出店場所はイオンモールのような商業施設で、アパレル店などが撤退した後の“好立地”に相次いでオープン。自販機が数百台も並ぶ様子は圧巻で、多くの消費者が視線を引き寄せられる。
カプセルトイメーカー、トイズキャビンで社長を務める山西秀晃氏は、「大量の自販機が、面白いものがあったら買おうと考えるライトユーザーをたくさん生み出している」と指摘。出店数が60に迫る大手専門店「ガチャガチャの森」を運営するルルアークのカプセルトイ事業部ゼネラルマネジャー、松井一平氏も「『カプセルトイを買わない人に買ってもらう店』がコンセプト」と説明する。同店は白色基調の落ち着いたデザインで大人が入りやすい。
専門店の集客力は商業施設にとっても魅力的で、今後の出店の勢いは加速しそうだ。例えば専門店「ドリームカプセル」の場合、「出店依頼は商業施設の規模を問わず、毎日平均10件程度が舞い込む状況」(運営会社の社長、都築祐介氏)だという。
このカプセルトイ専門店の増加が、参入メーカーの拡大につながっている。大型専門店が増えるほどメーカーは売り上げを伸ばしやすく、昨今の好調ぶりから新規参入が増加傾向。クレーンゲームの景品や土産物のキーホルダーなどを作るメーカーの参入は典型例で、コロナによる業績悪化も背景にある。結果、「11年にカプセルトイ専門店を始めたときのメーカー数は10社程度だったが、現在は30~40社に膨れ上がった」(都築氏)。
カプセルトイ業界の慣例である受注生産方式が、クリエーターの活躍の場を広げているという見方もある。カプセルトイの企画は専門店や卸の反応が芳しくなければ中止することが珍しくない。裏を返すと、自由な発想による独創的なカプセルトイが生まれやすい。アイデアが数カ月でカプセルトイとして形になるスピーディーさも手伝い、「優秀なクリエーターがどんどん生まれる環境にある」(松井氏)。
こうした作り手を取り巻く環境の変化が、多種多様のカプセルトイを生み出す。新商品の数は毎月300~400種類程度もあり、22年夏にはさらに増えると見られる。
『鬼滅の刃』などのキャラクターものが根強い人気を誇る一方で、価格に対して過剰と思えるほど精巧なものや、あまりのナンセンスぶりについ笑ってしまうものもよく売れる。「ここ数年で主流の価格帯は200円から300円へと値上がりし、クオリティーも上がった」(小野尾氏)。大人の所有欲を満たすものが増えたと言える。さらに、「20年以降、企業から自社ブランドを活用したカプセルトイ企画の依頼が目立ち始めた」(山西氏)という声も。自社の菓子ブランド「たべっ子どうぶつ」を使ったキャラクタービジネスを強化するギンビスは、「雑貨は女性を中心に人気が高いが、カプセルトイは男性の購入も多い。多くの消費者にブランドが再認識され、たべっ子どうぶつの販売は確実に伸びた」という。
●不確実さを楽しむ消費者
カプセルトイがここまで盛り上がっているのは、大人が不確実性の魅力を再認識したからでもある。カプセルトイに加えて専用自販機も製造するバンダイで、ベンダー事業部ゼネラルマネージャーを務める田川大志氏は、カプセルトイについて「もしも違う販売方法だったら、これほど多くは売れないだろう。ハンドルをガシャッと回し、『こんなものが出た!』という新鮮な驚きまでがセットになって消費者に受け入れられている」と分析する。
不確実さの魅力に着目した企業の1社がピーチ・アビエーションだ。行き先が指定された航空券を購入できる交換コードをカプセルに入れた「旅くじ」を、21年8月から22年4月上旬までで約2万2000個売り上げた。同社は「友人と一緒に購入してそれぞれが指定された旅先に向かい、お互いの状況をリモートで共有して楽しむ消費者も出てきた」と手応えを語る。不確実さを積極的に楽しむ動きとともに、カプセルトイ市場はさらに広がりそうだ。
注)2022年上半期ヒット大賞&下半期ヒット予測は、「日経トレンディ」2022年6月号に掲載しています。日経クロストレンド有料会員の方は、電子版でご覧いただけます。
最終更新日:6/20(月)6:00 日経クロストレンド