スシローとくら寿司 明暗なぜ

11月6日、回転寿司チェーンの「スシロー」などを展開する株式会社スシローグローバルホールディングスは決算説明会を行い、2020年9月期の売上高が2049億5700万円(前年度比2.9%増)となり、過去最高を記録したと発表した。



 当期利益は64億5700万円で前期比35.2%減となったが、4月に前年同月比58.0%まで全店売上高が落ち込んだことを考えると、驚異的な数字に他ならない。スシローの売上は10月には前年同月比109.7%にまで回復しており、2021年9月期の売上は2506億円と過去最高の更新を見込む。

 一方、12月2日には「くら寿司」を展開するくら寿司株式会社が決算発表を行った。2020年10月期の売上高は1358億3500万円(前年比0.2%減)とほぼ横ばいだったが、最終損益は2億6200万円の赤字となり、01年に上場してから初の最終赤字に転落した。前期が37億円の黒字だったので、コロナ禍の影響がもろに数字に現れた形だ。

 なぜコロナ禍で、スシローグローバルホールディングスとくら寿司の明暗が分かれたのか。それを紐解くキーワードが「テイクアウト・デリバリー」と「海外戦略」だ。2つの軸から、2社の差を分析していく。

 コロナの拡大で、イートイン以外の商機を模索する必要に迫られたのは回転寿司も例外ではない。スシローとくら寿司もテイクアウトとデリバリーを行い、巣篭もりニーズの開拓に動く。しかし、デリバリーとテイクアウトへの対応のスピードや体制の構築などで、両社の間には明確な違いが表れた。

 スシローのテイクアウトとデリバリーに対する動きは外食業界の中でも、ダントツに早かった。まずテイクアウトに関しては、緊急事態宣言が発出される前の4月1日にはテイクアウト限定で「スシロー手巻セット」(1980円)を発売し、同28日には「スシロー特上手巻セット」(2980円)を発売。いち早くテイクアウト需要を取り込む商品をリリースしている。

 また、4月15日には「持ち帰りネット注文サイト」をリニューアルし、注文商品を受け取るまでの時間が一目で分かるようにしたり、店舗の空き情報を見やすくしたりした。

 こうした取り組みの成果は数字にも表れている。コロナ禍以前はテイクアウトの売上構成比は10%程だったが、緊急事態宣言中はイートインの売上げが落ちたこともあり、30%程まで増加。4月と5月のテイクアウトの売上も前年対比で2倍から3倍に伸び、大きな成果を収めた。

デリバリーについては、スシローでは以前からUber Eatsや出前館などを積極的に活用していたことが大きい。2020年3月末時点でデリバリー対応店舗が118店舗あったため、高まるデリバリー需要をスムーズに取り込むことができた。

 一方、くら寿司は4月27日から5月6日まで自宅でくら寿司を楽しめるキャンペーン「おうちdeくら」を実施。また、5月25日からはうどんやラーメンのテイクアウトを29店舗で始めるとともに、「出前館」を利用したデリバリーも20店舗で開始した。

 外食業界全体で考えると、くら寿司の対応は決して遅くはない。それでもスシローと比べると、スピードでかなり差が付いた。スシローの4月の全店売上は前年同月比で58.0%、5月は同84.8%だが、くら寿司は4月が前年同月比51.9%、5月は同80.0%となり、スシローの方が売上の下げ幅が少なかったのだ。

 また、スシローととくら寿司には、もともとの戦略の違いがある。

 スシローの戦略の特徴は「ネタ重視」と「DX推進」だ。まずネタについていうと、スシローで提供する寿司の原価率は約50%に及ぶ。一般的な飲食店の原価率が30%ほどなので、スシローの数字はかなり高い。

 裏を返すと、それだけ良い食材を提供しているという裏付けになっている。現にテレビCMで打ち出しているのも一貫してネタだ。スシローが打ち出すキャンペーンの多くも、ネタを前面に打ち出している。

 ネタのクオリティを実現している一つの要因が、羽田市場の存在だ。羽田市場は羽田空港を拠点に空輸を中心とした鮮魚流通網を構築している企業として知られている。スシローは17年に同社と資本業務提携を結んでいるので、各地の新鮮な天然魚を、全国の店舗で提供できているのだ。単純に寿司のクオリティが高いので、デリバリーやテイクアウトでも注文が入る。

 とはいえ、原価に50%もかけてしまうと利益が出ない。そこで重要になるのが、二つ目のDXの推進だ。DXで人為的な作業を減らして、生産性を向上させている。それが非対面、非接触がキーワードとなったコロナ禍で大いに力を発揮した。

例えば、「自動土産ロッカー」だ。自動土産ロッカーなら、ネットや店内、電話、FAXで事前注文したテイクアウト商品を待たずに受け取れる。2019年6月に兵庫県の店舗で初めて登場し、4月時点で16店舗に導入されていた。

 また、スシローではセルフレジの全店導入も6月末で完了している。省人化や非接触の実現に重要なため、今後、2台目の配置も行っていく。この他にも、「自動案内システム」の導入店舗を増やしたり、「画像認識による自動会計システム」の実証実験をしたり、幅広い領域でDXの推進が進む。

 つまり、数年前から取り組んでいたDXの推進と、ネタ重視の戦略がコロナ禍で相乗効果を起こしたからこそ、デリバリーとテイクアウトにマッチした体制を速やかに構築できたのだ。

 実を言うと、「スシロー手巻セット」は過去に何度か販売したものの、その後しばらく扱っていなかった商品だ。コロナ禍で受け入れられると判断し、急遽復活させてヒット商品となった。

 一方、くら寿司の強みは、サイドメニューの豊富さだ。ラーメンやうどん、うな丼はもちろん、たくさんの種類のデザートも並ぶ。コーヒーなどのドリンクのクオリティも、回転寿司とは思えないほど高い。近年、寿司以外のメニューを幅広く揃えるチェーン店が増え、回転寿司のファミレス化が進んでいた。その急先鋒がくら寿司に他ならない。

 回転寿司のファミレス化が進んだ要因の一つに漁獲量の低下がある。漁獲量が減ると、原価が上がる。それは一皿100円が主流の回転寿司チェーンにとって致命傷になりかねない。つまり、上昇したコストを吸収する施策が、一匹の魚介を余すことなく使うメニュー開発であり、回転寿司のファミレス化であったのだ。

 また、「ビッくらポン」に代表されるようなエンタメ性もくら寿司の売りだ。大好評を博した『鬼滅の刃』とのコラボでもビッくらポンが活用されており、集客装置として大きな存在感を放つ。

 つまり、くら寿司は店での体験に力を入れており、来店ありきの店づくりを得意としているのだ。ただ、テクノロジーの活用も「時間制限管理システム」や「製造管理システム」、抗菌寿司カバー「鮮度くん」と、どちらかというと廃棄ロスを少なくし、店内のオペレーションを効率的にするものが多かった。

 ビッくらポンも鮮度くんも、店内で食事することではじめて意味をなす。コロナにおいては裏目に出てしまったと言えるだろう。

現在、回転寿司チェーンの売上規模は「スシロー」「くら寿司」「はま寿司」「かっぱ寿司」の順だ。2011年4月にかっぱ寿司からトップの座を奪って以来、スシローの独走が続く。

 2020年9月期の売上高はスシローが2049億5700万円である一方、くら寿司は売上高1358億3500万円で両社には700億円近い差がある。かっぱ寿司の今期の売上がおよそ700億円と予想されているので、その差はかなり大きい。

 他方で、業界3位のはま寿司の2020年3月の売上が1289億円となり、くら寿司にかなり肉薄してきている。そうした状況を尻目に、スシローは2021年9月期に2506億円の売上を見込む。

 その動向を大きく左右しかねないのが、海外戦略だ。スシローの海外展開は台湾、香港、シンガポール、韓国とアジア中心だ。その中で、韓国は不採算店舗を閉店するなど、コロナ禍の影響を受けたが、他の3つ国はダメージが少なかった。

 それどころか新規出店を続け、その存在感を高めている。2020年だけで台湾で11店舗、香港で4店舗、そしてシンガポールで3店舗を新規に出店し、海外でも継続的に利益を上げられる体制を築く。

 片や、くら寿司はアメリカと台湾に進出している。それぞれ現地に子会社を置き、アメリカでは2019年8月に、台湾では2020年9月に上場を果たす。しかし、ロックダウンの影響などで思うように営業ができず、アメリカの子会社は17億円の赤字に陥った。2020年10月期の最終損益が2億6200万円の赤字となった原因の多くが、アメリカの不振にあるといって間違いない。

 コロナ対応のスピード感、そして海外戦略で分かれた明暗。スシロー、くら寿司、はま寿司、かっぱ寿司の4強と言われていた回転寿司業界はかっぱ寿司以外の3強にりつつあるが、近い将来、スシローの1強になるかもしれない。

最終更新日:12/16(水)16:16 現代ビジネス

引用:https://news.yahoo.co.jp/pickup/6379510

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