更年期不調理解されず 嫌がらせも

40代以降の「更年期」に現れる心身の不調が生活や仕事に及ぼす影響について、厚生労働省が初の実態調査に乗り出す。労働現場からは、つらい症状を周囲に相談できずに孤立したり、症状の理解が得られずに嫌がらせを受けたりした報告も相次ぐ。離職を余儀なくされる深刻なケースもあり、法整備を求める声が上がっている。



■電車に乗れず

東京都内に住む女性(51)は50歳を迎えるころから体調不良に苦しむようになった。激しい頭痛、めまい、吐き気…。起き上がることさえつらく、気分が落ち込み、涙が止まらなくなることもあった。医師からは「更年期障害」と診断された。

通勤のための電車に乗れず、契約社員だった大手コールセンターの仕事を休まざる得ない日も出た。会社には症状を打ち明けて理解を求めたが、上司からは改善するように言われた。昨年3月に契約を更新しないと告げられた上、翌月には出勤率の低下を理由に雇い止めにあった。

「病院に通い、治療を積極的に行ったとしても、症状は完全にコントロールできるものではない」。女性は苦しい胸中を明かした。

■休暇制度なく

こうしたケースは氷山の一角とみられる。労働組合「総合サポートユニオン」などが昨春、更年期症状の経験者へ行った調査では、285件の回答中、「仕事で悩みを抱えたり、労働問題にあったりした」のは37%に上った。症状が原因で会社を休んだことがある人のうち、29%が「不利益な取り扱いを受けたことがある」と回答。嫌がらせやハラスメント、退職勧奨や雇い止めにあった人もいた。

更年期の不調に対し、労働基準法に定められた生理休暇のような制度はない。調査では「我慢するしかない」「相談できる人がいない」との切実な声も多く寄せられたという。

同ユニオンの青木耕太郎共同代表は「調査からは症状がつらくても休みづらい、休めないという実態も見えてきた。周囲の理解が乏しく、精神的に病んでしまうケースもある」と説明。「体調が悪い時には安心して休める制度づくりが必要だ」と訴える。

青木氏らは先月、更年期症状や生理中の体調不良で仕事を休んだ場合の不利益な取り扱いを法律で禁止することなどを求めた要請書を厚労省に提出した。

■経済損失は年間約6300億円

一方、中高年の離職は、企業にとっても大きな損失につながりかねない。

労働政策研究・研修機構などが昨夏、更年期症状を経験した約5300人を対象に行った調査では、40~59歳の男女のうち更年期症状が原因で「仕事を辞めた」のは女性9・4%、男性7・4%に上った。

日本女子大の周燕飛教授(労働経済学)は、過去3年間に更年期症状が原因で離職を経験した女性は約46万人、男性は約11万人に上ると試算。それによる経済損失は年間約6300億円と推計されるという。

周氏は「更年期とキャリアアップの時期が重なる人も多く、そこで離職を余儀なくされることは本人、企業双方にとって大きな損失となり得る。女性活躍の視点からみても、社会にとってマイナスだ」と語る。

厚労省は今年度から、更年期の不調が生活や仕事に与える影響などを調査し、支援策を検討する方針だ。

周氏は「更年期障害は誰にでも起こりうる。助け合いの精神が非常に重要だ」と指摘。「一人一人が更年期に関する正しい知識を持つことから始め、国や企業などは個人の体調や症状に合わせて柔軟な働き方のできる環境づくりを進める必要がある」と話している。

■更年期障害とは

女性の場合、閉経前後の45~55歳ごろが「更年期」にあたる。加齢による卵巣機能の低下で女性ホルモンの分泌が減り、さまざまな心身の不調が引き起こされる。主な症状は、ほてり、発汗、動悸、頭痛、めまい、気分の落ち込みなど。日常生活に支障が出ると「更年期障害」と呼ぶ。男性に起きることもある。

症状は多様で個人差がある。女性からの電話相談に応じる「女性の健康とメノポーズ協会」(東京)によると、更年期症状と気付かず、不調を我慢してやり過ごそうとしたり、思い通りに活動できないストレスを抱え込んだりして状態の悪化を招くケースもある。

三羽良枝理事長は「婦人科の専門医を受診し、更年期医療を受けることも大切」と説明。治療には女性ホルモンを薬で補う「ホルモン補充療法」や漢方療法などがあるという。

「自分にあった治療を受け、生活習慣も見直すことなどで症状の改善が期待できる。一人で悩まず、相談してもらいたい」。三羽氏はそう呼び掛けている。(三宅陽子)

最終更新日:6/18(土)19:02 産経新聞

引用:https://news.yahoo.co.jp/pickup/6429886

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