日銀は17日の金融政策決定会合で、現行の大規模な金融緩和政策を維持すると決めた。米欧の中央銀行が利上げに動く中、低金利を維持する日銀の金融政策との違いが意識され、今後も円安基調が続く可能性がある。景気の下支えを優先した判断だが、生活必需品の値上げが相次ぎ、家計の負担増が意識される中、日銀の判断が批判を招く懸念もある。
「為替が経済や物価にさまざまな影響を与えることは事実。動向については十分注視する」
日銀の黒田東彦総裁は、金融政策決定会合後の記者会見でこう述べ、急速に進む円安への危機感を示した。日銀が目指す物価の安定や経済成長に対して悪影響を与える可能性も明言。会合後の決定内容の公表文でも為替の急変を「リスク要因」とみなす文言を盛り込んだ。為替政策を担わない日銀としては異例の対応だ。一方で、円安が加速した4月ごろ国会答弁などで繰り返していた「円安は経済全体にはプラス」との言葉は封印した。
背景には、足元の金融市場では、各国の中銀の金融政策の違いが意識されて円安が進んでおり、「日銀が家計の負担増を加速させている」との批判を浴びるリスクが高まっていることがある。
米欧では新型コロナウイルスの感染拡大で停滞していた経済活動が再開する中で、物流網の停滞や半導体不足などの事態が発生。ロシアのウクライナ侵攻による資源高も追い打ちとなり、記録的な物価上昇(インフレ)が起きている。
そこで米国の中銀にあたる連邦準備制度理事会(FRB)や欧州中央銀行(ECB)は金融政策を緩和から引き締めへと転じた。FRBは15日に約27年ぶりとなる0・75%という大幅な利上げを決定。ECBも7月に11年ぶりに利上げに踏み切ると明らかにした。
お金は金利が高いところで運用した方が有利となるため、円を売ってドルを買う動きが加速し、円相場は6月には一時、24年ぶりの円安水準となる1ドル=135円台半ばに達した。
黒田氏も17日の会見で、「(米欧との金利差拡大を)材料にして市場が動いていることは否定できない」と認めた。だが、米欧中銀に続いて緩和から引き締めに転じることについては強く否定。「金利を上げれば景気に下押し圧力を加えることになってしまう。経済がさらに悪くなってしまう」と述べ、金融緩和を継続する正当性を訴えた。
円安は輸入コストの増加につながり、家計には負担増となる。黒田氏はすでに6日の講演での発言が批判を浴び、撤回に追い込まれたばかり。緩和は続けたいが、円安の「主犯」として批判を浴びることも避けたい――。あえて円安のマイナス面を強調する姿勢からは、そんな日銀の苦しい立場が透ける。しかし、今後も日銀の「独自路線」を背景に円安が進めば、日銀への批判がさらに強まる恐れがある。
そもそも現行の緩和策自体の継続性を危ぶむ声も出ている。日銀は国債を指定した利回り(価格)で無制限に買い入れる「指し値オペ」と呼ばれる公開市場操作を強化しているが、最近の債券市場では、10年物国債の利回りが日銀が政策目標の上限とする0・25%を上回るケースも目立ち始めている。
黒田氏は「米欧の金利上昇で(日本の金利にとっても)上昇圧力が生じている」と指摘した上で、現行の金利抑制策に「限界が生じていることはない」と述べた。
だが、今後も市場では、「日銀が円安や金利上昇の動きに屈して金融政策を転換に追い込まれるのでは」との思惑がくすぶり続け、金融市場の不安定要因となる可能性がある。【岡大介、杉山雄飛】
最終更新日:6/17(金)22:39 毎日新聞