黒字リストラ 企業の人減らし加速

中高年の労働者が、正規、非正規にかかわらず相次いでリストラの対象になっている。早期・希望退職を募集する企業が赤字というわけではなく、好業績でも人員削減に踏み切る企業があるほどだ。その背景には何があるのだろうか。AERA 2022年6月20日号の記事から紹介する。

■約4割が「黒字リストラ」好業績下で人員削減を行う

 ところが、早期・希望退職を募集する企業が全て赤字かといえば、そうでもない。21年の84社のうち44%に当たる37社が、好業績下で人員削減策を行う「黒字リストラ」だった。しかも、1千人以上の募集をした5社のうち旅行大手のKNT-CTHDを除く4社が、最終損益は黒字だった。また、19年は57%、20年は45%が黒字リストラに踏み切っている。

 日本の雇用制度の脆弱性(ぜいじゃくせい)がコロナ禍で浮き彫りになったと指摘するのは、労働問題などに取り組むNPO法人「POSSE(ポッセ)」代表で、雇用・労働政策に詳しい今野晴貴(こんのはるき)さんだ。

「もともと日本の企業は、景気が変動したときは黒字であってもコストカットのため賃金の高い中高年への早期希望退職を募ってきました。特にリーマン・ショック後はその動きが顕著になり、今はコロナを理由に早期希望退職は社会的にも受け入れやすく、本人たちもしかたがないと思ってしまうところがあると思います」

 DX(デジタル技術による変革)化も、中高年がリストラの対象になる要因だ。今野さんは言う。

「デジタル化への対応は中高年を再訓練してスキルアップさせることでもできるはずですが、若者を採用したほうが低いコストでできます。デジタル化が進むなか、リストラはさらに加速していくと考えられます。しかし、リストラによる雇用の流動化は新しいものは何も生みません。しかも、日本は若者に対しても訓練にかける費用が少ない社会になっていて、それが国際競争力を落とす要因になっていると考えられています。社会を発展させ労働者個人の能力を拡大するという観点からも、国や企業は、すべての労働者が長期的に成長する職業訓練システムを構築する必要があります」

立場の弱い非正規雇用で働く人々の雇用も深刻だ。日本の科学技術をリードする理化学研究所(理研。本部・埼玉県和光市)で研究室のリーダーを務める男性研究者は憤る。

「非常に乱暴なやり方です」

 理研には現在、直接雇用の職員が約4800人おり、その8割近い3800人が非正規雇用で1年単位の契約更新を繰り返している。そのうち200人以上が来年3月末で雇い止めになるという。男性研究者もその一人だ。

■背景に改正労働契約法「10年超える契約しない」

 10年ごろ理研に採用され、研究室を率いて基礎研究を行ってきた。通常、基礎研究は実を結ぶまで10年、20年という長い年月がかかる。男性の場合、あと数年で研究が医療応用のレベルに達成するのに雇い止めとなる。

理研からは就業規則に基づき雇い止めをし、研究室をクローズするという連絡が来ただけだ。具体的な説明は一切ないという。

 雇い止めの背景にあるのが、13年4月に施行された改正労働契約法だ。

 契約期間が通算5年を超えた人は、定年まで働ける無期転換に移れる「5年ルール」が導入された。ただ、大学や研究機関は特例として5年ではなく10年とする「10年ルール」が定められた。同法は本来、安定した雇用を労働者に提供するもので、権利を得た社員が無期雇用への転換を希望すれば雇う側は拒めない。しかし、5年ルールの運用が始まる直前に会社が雇い止めにするケースが絶えず、契約を更新されなかった労働者が訴訟を起こす事例が各地で起きている。

 理研は16年4月、就業規則を「10年を超える契約はしない」と変更し、雇用開始の起算日を13年4月かそれ以降とした。理研によれば、これにより約200人(22年4月現在)が来年3月末に雇用上限を迎えて雇い止めとなる。理研労働組合によると、約200人のなかに約50人の研究室主宰者が含まれ、それにともなって研究室で働く多くの職員も仕事を失うという。

 同労組執行委員長の金井保之さんは、雇い止めは10年ルールの適用を意図的に避けるための雇用上限の導入だと批判する。

「少なくとも来年3月末での雇い止めは、理研が就業規則を改定した16年4月より前に採用された職員を対象としていて法的に無効。そもそも、雇用の上限も撤廃すべきです」

 理研の広報室は取材に対し、こう答えた。

「研究力を維持・発展させるため無期雇用職員の公募・採用を進めており、有期雇用職員による流動性と無期雇用職員による安定性、双方を兼ね備えた人事制度を運用している」

 だが、先の男性研究者は言う。

「雇い止めとなれば研究は中止となり、研究の継続的な発展ができない。競合するアメリカや中国など、諸外国から立ち遅れてしまう。基礎研究は雇用が安定して精神的に落ち着いた環境でないと難しい。それが10年で雇い止めされるとなると、研究機関としての魅力がなくなり理研で研究したいと思わなくなる。すでに海外に職を求める若者も出ている。近年、日本の科学技術力は後退の傾向にあるが、さらに拍車がかかると思います」

 厚生労働省によれば、コロナ禍に見舞われた20年2月から今年4月末までに解雇や雇い止めになる可能性のある非正規労働者は、全国のハローワークに届け出があっただけで約6万人に上った。(編集部・野村昌二)

※AERA 2022年6月20日号より抜粋

最終更新日:6/17(金)18:41 AERA dot.

引用:https://news.yahoo.co.jp/pickup/6429784

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