駅弁かしわめし 九州との縁

全国には約2000種類の駅弁があり、それぞれ肉や魚などさまざまな食材を用いつつ、味や見た目で楽しませてくれます。そのなかで、多くの駅弁販売店において定番に君臨しているのが、ご飯の上を鶏肉、玉子、刻み海苔の3色で彩った「とりめし」ではないでしょうか。



 一見してシンプルに思える「とりめし」ですが、実は各社ごとにさまざまな工夫が凝らされています。ご飯を炊く際に使うダシの取り方も各社で違い、鶏肉の部位の選択から、味付けや身のほぐし方など、各社とも千差万別。3色の盛り付け方も、トリコロール状のものやストライプ状のものもあり、見た目のバリエーションもさまざまです。

 とりわけ九州地方では一般的に「かしわめし」と呼ばれ、島内全域に広く分布しています。なかでも福岡周辺では、小倉、折尾、博多、鳥栖といった主要駅でそれぞれ個性を持ったかしわめしが販売され、揺るぎないファン層を獲得しています。

「かしわめし」のみならず、福岡県では「水炊き」「博多やきとり」「がめ煮(筑前煮)」などさまざまな鶏料理を見かけます。1世帯当たりの鶏肉消費額は、全国の主要54都市中で福岡市が1位(2017~2019年、総務省調べ)を記録するなど、その食べ方をもっとも心得た地域と言えるでしょう。

 このような福岡周辺の「鶏」文化、そして「かしわめし」駅弁が九州で多く広まっていったのには、歴史的な理由がありました。

2018年には、一度は幻の味となった博多駅「かしわめし弁当」の復活が話題を呼びました。これは2010(平成22)に廃業した駅弁業者「寿軒」の末永直行会長(2019年死去)から申し出を受けた広島駅の「ひろしま駅弁」が、福岡市に子会社を設立してまで手がけたもので、古くからの絆が伝統の駅弁を復活に導いたと言えるでしょう。

 九州以外で見ると、福岡と距離的に近い山口線 津和野駅(島根県)の「かしわめし弁当」が九州と似たスタイルを踏襲しています。群馬の高崎駅「鶏めし弁当」も、九州出身の創業者が開発しただけあって一見似ていますが、卵がない代わりに肉が多めで、しっかりした味付けや添えられた赤玉こんにゃくなど、上州の地ならではのアレンジが見られます。

 ブランド鶏「名古屋コーチン」の産地である名古屋でも、さまざまな鶏肉を使った駅弁が展開されていますが、そのなかでも名古屋駅で販売されている松浦商店の「とり御飯」(現在は「天下とり御飯」)は、小松左京氏のSF小説「首都消失」の冒頭にも登場したことで知られています。作者も大好物だったというこの駅弁をいただく前に、作品を一読して「このあと首都圏と連絡が取れなくなるのか」と感じながら作中の世界に入るのも良いかもしれません。

 他に代表的な「とりめし」駅弁としては、新宿駅「とりめし弁当」(かつて販売されていた「新宿田中屋」の復刻版)や、中央本線 塩尻駅(長野県)の「とりめし梓」(多量の野沢菜入り)などが挙げられます。また、オーソドックスな3色タイプとは異なるものの、ごぼうなどの根菜を炊き込んだ上に鶏肉の煮込みを乗せた奥羽本線 大館駅(秋田県)の「鶏めし弁当」を手掛ける花膳は、2019年、フランス・パリに路面店を出店したことでも話題を呼びました。

 それぞれ業者ごとに工夫がなされた「とりめし」「かしわめし」駅弁は、地域の好みによって違う味の濃さ・調理法など、多様性を持つ食の文化のバロメーターと言えるかもしれません。出先の駅で見かけた際は、それぞれの個性を楽しむのも良いのではないでしょうか。

最終更新日:12/14(月)20:40 乗りものニュース

引用:https://news.yahoo.co.jp/pickup/6379310

その他の新着トピック