新入社員が4月に入社してから2カ月弱が経過した。
例年なら新しい環境に適応できずに心身に不調が現れる「五月病」の時期だが、近年は「配属ガチャ」「上司ガチャ」に頭を悩ます新人も増えているという。
また、ラーニングエージェンシーが22年4月に発表した「働くことに関する新入社員意識調査レポート」によると、「将来会社で担いたい役割」を尋ねた質問で「専門性を極め、プロフェッショナルとしての道を進みたい(専門家)」と答えた人が31.6%と最も高く、一方「組織を率いるリーダーとなり、マネジメントを行いたい」は23.5%と14年の調査開始以来、過去最低の低さになっている。
特にコロナ禍で経営環境が劇的に変化する中で自分の将来に対する不安も大きくなっているだけに、専門性を少しでも早く身につけたいと思う新入社員も多いのだろう。
そうした学生にとっては「希望する仕事に配属してほしい」「どこに配属されるのか知りたい」と思うのは自然かもしれない。
そもそもなぜこういう仕組みになっているのか。まず、実際に新人を働かせてみないと適性が見極めにくいという問題がある。
日本企業は欧米のように職種別に採用するジョブ型雇用と違い、ノースキルの学生を「総合職」という名前で大量に採用する新卒一括採用方式をとる。入社後は研修や配属先でのOJT(職場内訓練)、さらには定期的な人事異動を通じて一人前に育成していくやり方が主流だ。そもそも何十人、何百人という新人を各部署に割り当てざるを得ない企業にとって希望する部署に配属するのは難しい。当然、「配属ガチャ」が発生する。
一方、企業側もキャリアや専門性志向の高まりを受けて、できるだけ希望部署に配属させたい意向はある。実際に配属部署を事前に明示する職種別採用を実施しているところもある。
ただし、職種別採用は入り口だけであって、これまでのケースを見ると、同じ配属先にとどまれる保証はなく、異動の可能性が高いのが現実だ。
一方、配属ガチャだけではなく、新入社員のもう1つの悩みは周囲との人間関係が悪化する“上司ガチャ”の問題だ。会社の中にはプレイヤーとしては優秀でも、コミュニケーション力が低く、指導力に欠ける上司もいれば、部下の意見にあまり耳を傾けることがなく、一方的にしゃべりまくり、ときには過去の栄光をひけらかす昭和的上司も残存する。そんな上司に嫌気がさして入社直後から転職サイトに登録する新人も少なくないといわれる。
それを防止するために最初の配属先の上司との相性をチェックする人事部も少なくない。広告会社の人事部長はこう語る。
「例えば、親分肌で無理難題を言ってくるような上司の下にストレス耐性が弱い新人を入れると、すぐにやめてしまうリスクが高まる。そうしないために新人がどんなタイプなのか、何事も細かい性格なのか、ストレス耐性はどうなのかを適性検査をもとに分析する。その上で配属先の上司のタイプを見て、この人であれば新人との間でトラブルを起こす確率は少ないだろうと考えて配置をしている」
上司にはいろんなタイプがいる。実は同社に限らず新入社員と上司のマッチングを行っている会社も多い。
前出のサービス業の人事部長は「新卒採用数が30人程度の企業は間違いなく相性を考慮して配置しているのは間違いない。新入社員は社会的耐性がなく、上司と相性が悪いとメンタルダウンを引き起こしてしまいがち。最悪辞めてしまうリスクを回避するために大半の企業がやっているのではないか」と指摘する。
このやり方だと上司ガチャは発生しにくいし、新入社員にとってはありがたい話だ。しかし、弊害もあると言う。同人事部長は「新入社員は仕事や人間関係などいろんなカベにぶつかり、それを克服して成長していくものだ。単純にリスク回避でやさしい上司の下に預けると、仲良しクラブみたいになり、本人の成長を阻害することにもなりかねない」と危惧する。
もちろん、優しい上司ばかりではないし、新人全員をこうした上司の下に送り込むには限界がある。本人の成長と会社が期待する役割をどうマッチングさせていくのか、配属ガチャ問題と同様に上司ガチャ問題の解決は企業の切実な課題といえる。
次回は“Z世代”である新入社員をどう育成していくのか。日本企業の育成の現状と課題について探っていきたい。
最終更新日:5/30(月)15:43 ITmedia ビジネスオンライン