成城石井が上場へ 課題は出店地か

上場食品スーパー各社の2021年度(22年2月、3月期)決算がだいたい出そろった。コロナ禍の巣ごもり需要の恩恵を受けて、ほぼ全社、増収増益であった20年度とは異なり、前年度の反動から多くの企業が減収もしくは減益となった。

ローソンは、株式の売却で得た資金を株主還元やコンビニエンスストア事業への投資に充てるとしている。

 コンビニの国内市場は既に飽和しており、コロナ禍によるオフィス街、事業所向け需要が低迷している影響もあって、コンビニ市場規模や店舗数は頭打ちになっている。コンビニ業界ではこうした動向を踏まえて、これまで画一的であったコンビニの店舗フォーマットを見直し、さらなる商圏の細分化を目指そうとしている。

 ざっくり言うなら、これまでの店舗あたり平均年商2億円という損益分岐点をさらに下げて、より小さい商圏(商圏人口が少なくて出せなかった施設内、事業所内、過疎地域など)を取り込むことで、出店余地をもう一度拡大しようというのである。

 例えば、DX武装による無人店舗化もそうだし、自販機タイプのミニ店舗の出店実験などもこうした類の取り組みである。運営コストを下げることで、これまでは出店できなかった場所にも進出する店舗フォーマットを作り出そうとしている。

 このような仕組みづくりのためには、コンビニ本部は投資資金がこれまで以上に必要になる。特にトップ企業セブン-イレブンとの収益力格差が歴然としているローソンとしては、ここで成城石井という「孝行息子」の潜在価値を活用して、資金を捻出することは理にかなっている。

 ただ、なぜ今かといえば、成城石井のビジネスモデルがいったん、踊り場に差し掛かっているということも要因かもしれない。

 成城石井はこれまでは順調に売り上げ、店舗数を伸ばし、かつ、ずば抜けて高い収益力を誇ってきた優良企業であることは既に述べた通りだが、裏返せば、一般的な食品スーパーとは異なるビジネスモデルだということもいえる。

 同社の店舗網は首都圏を中心に近畿、中部の都市部に展開しており、広く残っている未出店地域への進出によって成長の余地は大きい、という記事も見かけたが、その点に関しては若干疑問が残る。それは成城石井の現在の店舗立地を見ることによって分かる。

成城石井の店舗数は200店舗あまりあるが、その9割以上が首都圏、京阪神、中京の3大都市圏内に展開している。そのうちの7割弱は首都圏にあるのだが、その出店場所のほとんどが鉄道駅周辺に偏っている。

 成城石井の立地を、東京、首都圏(東京以外)、京阪神中部に分けて立地をざっくり分類した図表を作成した。東京都内では9割が駅前立地、うち7割は駅ビル内、東京以外の首都圏でも9割が駅前立地、うち8割は駅ビル内となっている。(※外部の配信先では図表を閲覧できない場合があります。その際は「ITmedia ビジネスオンライン」の記事ページからお読みください)

 この傾向は京阪神、中部においてもほぼ同様である。ちなみに3大都市圏以外の地方エリアにも12店舗ほど出店しているが、これらも全て駅隣接商業施設内である。

 大都市圏郊外においては、一部郊外型大型ショッピングモール内に若干出店しているが、その数はかなり少ない。首都圏エリアにおいては駅前単独店やロードサイド単独店も一定数存在するのだが、これらの出店地域は千代田区、中央区、港区、世田谷区、渋谷区、目黒区、神奈川県の田園都市線沿線に集中している。これら地域は平均所得が国内トップクラスとなる「高所得層」居住エリアである。

 これらからざっくり言えば、成城石井の出店適地は「高所得者居住エリア及び大都市圏の駅ビル内」である、といってもいい。

 出店エリアをこうした立地に絞った展開をしているというのは、成城石井の店舗が成立するためには、生活水準に余裕のある消費者の頭数が一定数以上必要だということを示している。

 高所得層の密度が高い都内中心部、もしくは生活に余裕がある消費者が一定数以上通る人流のハブにある駅ビル。これが成城石井の出店適地だとすれば、今後の出店余地は限定的と言わざるを得ない。なぜなら消費者の動線が鉄道と駅を中心にできているような場所は首都圏、京阪神以外にはほとんど存在していないからである。

ご存じの通り、首都圏、京阪神以外の生活動線の主流はクルマに移行しており、こうした地方エリアにおいては上位政令都市を除き、駅を中心とした市街地は既に交通のハブとしての機能が著しく低下している。地方での消費者の生活動線は幹線道路となっており、買物におけるハブは郊外型大型商業施設となっている。地方エリアでは駅ビルのある駅は極めて限定的であり、あったとしても買物動線からは外れている。成城石井の出店適地である「駅ビル」は地方エリアにはほとんどない。

 これから成城石井がさらに出店を拡大していくためには、首都圏、京阪神の駅前再開発や駅ビル改装を押さえるか、郊外型ショッピングセンターの新規出店、改装などを取り込む、といったタイミングにならざるを得ない。

 いくらでも空地がある郊外ロードサイドに出店して業容を拡大できる一般的なチェーンストアとは事情が異なるということだ。未出店の駅ビル内に進出するにしても、駅ビルには既存のスーパーが営業しており、そう簡単には明け渡してはくれない。郊外型ショッピングセンターに出店しようにも、地方の集客力あるモールの大半は、イオンやイズミなど大手流通グループの運営であり、自社グループを優先するのが普通であろう。

 首都圏という最大のマーケットにおいて、駅ビル立地で1000億円以上にまで成長した成城石井は、出店立地、対象顧客層の再構築という転換期が来ているのかもしれない。ローソンはこうした背景を十分に理解していればこそ、この時期に上場して投資を一部換価しようと考えたのだろう。ローソンにとっては、食品スーパー成城石井の中長期的課題解決に取り組むことより、転換期にある本業コンビニへの投資を最重要課題と考えるのは、ある意味当然かもしれない。

 それはさておき、原材料高騰、円安などによる各種食品の値上げのニュースが毎日のように報じられるご時世になった。さまざまな社会情勢を背景とした物価上昇であり、やむを得ないとはいえど、消費者としては給与所得などの改善が追い付かない状況にあるため、財布のやりくりで凌いていくしかない。

 入りが増えない中、支出が増えるとなれば、優先順位をつけて支出を削らねばやっていけない。日常消耗品の買物に関しても、これからは価格選好の傾向となるのであれば、品質の高い商品をそれなりの価格で提供する品質訴求型のスーパーにとっては、逆風となることも懸念される。

 上場準備を進める成城石井は、これからの成長戦略を示していくことが求められるが、大きく変化しつつある消費環境の下での出店立地の再構築という課題を抱え、難しいかじ取りを迫られることになるだろう。

最終更新日:5/30(月)9:59 ITmedia ビジネスオンライン

引用:https://news.yahoo.co.jp/pickup/6427887

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