看板商品「相国最中(しょうこくもなか)」などで知られ、5月16日に廃業を発表した和菓子店「紀の国屋」。26日、スイーツのインターネット販売を手がけるアイ・スイーツ(東京都文京区)は、紀の国屋の元従業員20人を雇用し、「匠紀の国屋」として新たに事業を始めると発表した。廃業の発表からわずか10日で新ブランドでの再始動が決定――という急転直下の事態に驚きの声が上がる。この間に一体、何があったのか。アイ・スイーツの社長に話を聞いた。
「復活させたいというよりも、社員の方が職を失うのは非常に悲しい出来事ですし、救ってあげたいなという気持ちからです。厳しくなって廃業した理由も、紀の国屋自身だけの問題じゃないと聞いていました」
こう話すのは、アイ・スイーツ社長の稲垣富之さんだ。稲垣さんは以前から、紀の国屋の社員と面識があり、社員の窮地に何かできることはないかと、元従業員らに声をかけたという。
「ボランティア的な意識が先走って動いています」と稲垣さん。テナント探しにも着手し、不動産事業者と交渉。事情を説明すると「家賃を安くします」などと協力に応じてくれたという。「多くの人の支えがあった。それだけ紀の国屋が愛されてきた証だと思っています」と稲垣さんは話す。
アイ・スイーツは現在、「匠紀の国屋 国分寺店」(東京都国分寺市)の6月1日オープンを目指し、店舗の内装工事などを急ピッチで進めている。従業員らは製造機械の準備やオペレーションの確認に夜を徹してあたっているという。「商品の安定供給という点ではまだ満足な状況に至っていないので、オープンが遅れる可能性もあります」と稲垣さんは話す。
従来の店舗名の頭に「匠」をつけた意味――。稲垣さんは「和菓子職人の気質という思いだけはつないでいきたい。そういう思いから、匠とつけさせてもらいました」と強調する。
一方で、「紀の国屋」から「匠紀の国屋」への名称変更には、家具専門店「大塚家具」から「匠大塚」が派生した一件を連想させる。
――新名称に「匠大塚」を意識した部分はあるのですか
「ええあります。匠大塚さんも親子喧嘩がクローズアップされた部分がありますが、もともと持っていたビジネスモデルが、いま(本店がある)埼玉県春日部市で残っています。これはやっぱり、ビジネスモデルがしっかりと根付いている証だと思っています」
「われわれも、そういう部分では紀の国屋のビジネスモデルがちゃんと残るんだという証にしたい。紀の国屋のビジネスや商品が悪かったわけではないし、商品も社員も素晴らしいものだと信じているので、彼らの思いをつないでいきたいと思っています」
最終更新日:5/26(木)18:05 ITmedia ビジネスオンライン