4月23日、北海道知床で発生した遊覧船の事故は、いまも懸命な捜索活動が続いている。長引くコロナ禍で客足が途絶え、全国の旅客船事業者の約7割が2021年の当期純利益(利益)が赤字だったことが東京商工リサーチ(TSR)の調査でわかった。
国土交通省は今回の事故を受け、小型旅客船舶の安全対策の強化を進めているが、財務内容の悪化で安全対策費用の捻出が容易でない事業者が多い実態が浮き彫りになった。
TSRの企業データベース(390万社)から3期連続で業績が比較可能な95社の「旅客船事業者」(沿海旅客海運業、港湾旅客海運業)を抽出した。95社の2021年の売上高合計は1237億7800万円で、コロナ前の2019年と比べ約2割減(19.7%減)と大幅に落ち込んだ。また、当期純利益合計は2019年の26億900万円の黒字から、2021年は101億5600万円の赤字に転落した。
旅客船事業95社をみると、売上高5億円未満が約7割(構成比69.4%)、資本金1億円未満が8割(同80.0%)、従業員50人未満が7割(同70.5%)を占めるなど、小・零細規模の事業者が多い。
コロナ禍で外出自粛や旅行の手控え、インバウンド需要の消失などで売上不振は深刻さを増している。一方で、船舶などの設備維持や更新、安全対策の強化などへの投資が負担になり、経営体力が落ち込む事業者が少なくない。
観光客などの消費は地域振興への効果も大きい。旅客船事業者は中小・零細規模が大半を占めるだけに安全対策を事業者任せにせず、国や自治体など行政からの支援も必要だろう。
※ 本調査はTSR企業データベース(390万社)から、主業種が「沿海旅客海運業」「港湾旅客海運業」の企業を「旅客船事業者」と定義し、抽出した。調査は旅客海運が対象で、川や湖の「河川水運業」「湖沼水運業」は除いた。2021年(2021年1月期-12月期決算)、2020年(同)、2019年(同)の3期で売上高、利益が比較可能な95社を対象とした。
95社の売上高合計は、コロナ前の2019年は1541億9200万円だったが、コロナ禍で人流が抑制され、観光客の減少した2020年は1418億3800万円(前期比8.0%減)、2021年は1237億7800万円(同12.7%減)と厳しい決算が続く。
一方、当期純利益(利益)の合計は2019年が26億900万円の黒字だったが、2020年は29億5800万円の赤字に転落。さらに、2021年は101億5600万円と赤字が膨らんだ。
最終更新日:5/23(月)15:30 東京商工リサーチ