大手ディスカウントストア「ドン・キホーテ」が展開するPB「情熱価格」が、今SNS上で話題を集めているのをご存知だろうか。その理由はズバリ、商品名が長すぎること。
「洗濯80回実証!!洗っても洗っても洗っても洗っても洗っても洗っても洗っても洗っても洗っても全っ然色落ちしない!!ホコリがつきにくい素材で黒が映える!色褪せ知らずの黒ストレートパンツ」
といった具合だ。そこで今回は、ドン・キホーテPBサポート部、PBマーケティングチームの責任者である中武正樹氏にインタビュー。ユニークな商品名の秘密や、消費者からのダメ出しを積極的に受け付けるために開設したという特設サイト「ダメ出しの殿堂」などについて話を伺った。(全2回の1回目/ 後編 を読む)
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――公式サイトに「ふざけた商品名ですが、まじめにつくっています」と書かれており、もはや商品名というより“感想文”にすら思えるネーミングセンスは強烈です。まず、「情熱価格」というブランドが誕生した経緯を教えてください。
中武 「情熱価格」は2009年10月を皮切りにスタートし、2021年にリニューアルしたブランドです。スタート当時からお客様の声を形にすることをコンセプトにして、「こんな商品がほしい」とか、「頻繁に使う商品だからもっとリーズナブルにしてほしい」というような意見を実現させようと、メーカーさんと手を組んだのが始まりでした。
例えば「100gのものを200gにしてほしい」という意見があるなら、それをどうにか実現させようと奮闘する。他のメーカーさんなどでは、どうしても小さな意見の1つ1つに応えて商品化することは難しいでしょうが、「情熱価格」はそうした消費者の意見に腰を据えて向き合っていこう! と立ち上げたブランドだったんです。
――では、なぜ2021年にリニューアルすることになったのかが気になるところですが。
中武 実は2009年に誕生したときは、お客様の声を形にして多くの方に買ってもらいたいという、少々ありきたりなテーマでの出発だったんです。でも“お客様の声を形にした画期的な商品”って、他社様にも存在しますよね。それでは弊社で買っていただく特別な理由にはなりません。
ドンキって、店舗に商品をぎゅっと詰め込んだ“圧縮陳列”のインパクトなどもあって、お客様にユニークで面白い業態イメージを持っていただいていると思うんですよ。なのに、そこのオリジナルブランドの商品が「普通で面白くないね」なんて思われてしまっては、買い物にアミューズメント性を与えるという使命を持っている私たちとしては、企業理念を全うできていないことになってしまいます。
これまでもがんばってはいましたが、振り返ったときに“弊社への世間のイメージとかけ離れてしまっていたのでは?”と自問したことで、ロゴも一新してリニューアルする運びとなりました。
――リニューアル後はどういった特徴を持っているのでしょうか。
中武 実は我々、リニューアルの際に、“驚きのニュースがない商品は作りません!”という宣言をしたんです。“買ったものをただ使って終わり”というのではなく、商品を使っていただいたときや、食べていただいたときに、必ず何かしらの感動を与えたり、クスッと笑ってほしい。そういう気持ちは込めるように心がけています。
またリニューアルに合わせて「ピープルブランド宣言」というものを行いました。PBとは一般的に“プライベートブランド”の略称ですが、「情熱価格」はお客様に寄り添うという理念から現在は“ピープルブランド”としたんです。
これは「自社の所有物としてのPB(プライベートブランド)」ではなく、「お客様と一緒に創り上げるPB(ピープルブランド)」へと生まれ変わるぞ、という宣言であり、ドンキにいらっしゃるお客様を中心としたものづくりをしよう、というお約束でもあります。
こちらの商品は、にんにくを一般的なペペロンチーノの6倍も入れた商品です。まあ、ほとんどのメーカーさんであれば、こんな万人ウケしなさそうな尖った商品はまず作らないでしょうし、仮に作ったとしてもニッチすぎて小売店さんも取り扱いたがらないと思います(笑)。でも、そういった他社がやらないものを商品化してこそドンキですし、こういう精神は大事にしていきたいんですよね。
ちなみに開発裏話として、実はペペロンチーノに通常の10倍のにんにくを入れるという案があったんですが、商品開発の段階で6倍以上入れても威力が変わらない、というより鼻と舌が違いを認識できないことがわかったんです(笑)。なので、同商品はある意味“限界までにんにくを入れた商品”と言えるでしょう。
中武 少々複雑なのですが、厳密に言うと正式な商品名は『色褪せ知らずの黒 ストレートパンツ』、『ありえねぇ情熱価格 ゴロゲー ゲーミングビーズマットレス』です。つまり、「洗濯80回実証!!洗っても洗っても~」や「人はまだまだダメになれる~」の部分は、いわゆるキャッチコピーに相当する文章ということになりますね。
ただ、確かに商品パッケージには、あたかもすごく長い商品名かのように記載しています。一見長すぎて混乱されるかもしれませんが、我々は商品パッケージを紙面に見立てているんです。ですからこういった商品名は社内で“ニュース”と呼んでいるんですよ。要するに、パッケージに「こういう商品なんです」とか「これを使えばこんなメリットがあります」とか、商品の自己紹介をそのまま書いてしまっているんです。
ドンキの店舗には商品を手に取って説明する販売員がほぼいないので、これまでは手書きのPOPを使って商品紹介をしてきたのですが、それが商品そのものにも書いてあればよりわかりやすいんじゃない? という発想から始まったのがこのデザインです。
最終更新日:5/22(日)21:06 文春オンライン