脳性まひ乗り越え 起業に挑戦

出生時の事故による脳性まひで全面的な介助が必要となった兵庫県淡路市の小橋弘照(ひろあき)さん(31)が、株式会社「ジオサイト」を起業した。世界初成功というオニテナガエビの養殖を、最先端技術で監視する“在宅警備”を請け負う。小橋さんは、「体が不自由な多くの人たちのため、必ず事業を成功させる」と決意を固める。(内田世紀)



 小橋さんは手足を思うように動かせず発語もままならないが、幼い頃から前向きな性格で周囲を驚かせた。小学生の時にパソコンに出合い、あごを使う操作をマスター。児童会役員に立候補し「人の役に立つ仕事をしたい」と意見を発信した。中学では家族の反対を押し切り野球部に入部。夢はかなわなかったが高校受験にも挑戦した。

 現在はパソコンを駆使して自らのヘルパーの手配や、知人の名刺作りなどもこなす。

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 起業のきっかけは、同市の「岩屋陸上養殖ラボ」でオニテナガエビの完全養殖に成功した「ジオノーツ」(本社=神戸市中央区)のメンバーとの出会いだ。

 代表の森田圭一さんらと親交を深めるうち、小橋さんの将来について語り合うようになった。

 オニテナガエビの養殖には厳密な水質管理が必要だ。その水槽を遠隔で監視する業務を、「自宅で毎日パソコンに向き合っている小橋さんが適任」と森田さんらは判断。両親亡き後の生活に不安を感じていた小橋さんに、「会社を設立し、世間と対等な立場で仕事をしては」と提案した。議論を重ね、小橋さんは責任と重圧に涙することもあったが、最後は「親に心配を掛けたくない。弱い立場の人が、生活もできないような安い賃金で雇われる社会を変えたい」と覚悟を決めた。

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 資金調達などを経て、ジオサイトは9月23日に登記。ジオノーツと業務委託契約を結び、同社が出荷した稚エビを育てる養殖業者の水槽を監視する。

 システムは小橋さんと同社が構築。水温や塩分濃度などをセンサーでチェックし、異常があればオンラインで通知する。開業時は京都市の1社が契約。今月には早くも水質の悪化に対応した。小橋さんは「不安もあったが、経験が自信になった」と笑う。

 社員はまだ自分1人だが「事業が軌道に乗れば、自分と同じように苦しんできた人たちに、新たな雇用を生み出すことができる」と小橋さん。全身を震わせてパソコンを操作し「体が不自由な僕にも、できることがある」とつづった。

■味が良くアジアで人気食材

 オニテナガエビは、東南アジアなどの淡水に生息する。味が良くタイや台湾などではポピュラーな食材として知られるが、日本では生体の輸入が禁じられているため、企業や研究機関が養殖を試みるが、日本の四季や水質への適応が難しく成功例はなかった。

 ジオノーツは2019年、淡路市に屋内養殖場を設け、タイの大学などで学んだ職員を中心に研究。ふ化後のプランクトンから22回の変態を経て稚エビとなる過程を解明し、段階に応じた水質管理や給餌などの飼育技術を確立した。

 今後は稚エビを養殖業者に販売しながら、出荷サイズまで育てる「畜養」を支援する。森田代表は「完全養殖に成功したことで、さまざまな業界から注目されている。小橋さんの力も借りて、オニテナガエビが当たり前に食卓に上ることが最終目標」と話す。

最終更新日:10/24(土)15:47 神戸新聞NEXT

引用:https://news.yahoo.co.jp/pickup/6374614

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