低迷が続く国内百貨店にさらなる試練が訪れている。百貨店大手が12月1日発表した11月の既存店売上高(速報)は、三越伊勢丹ホールディングスが前年同月比12.5%減、高島屋が同11.3%減、大丸と松坂屋を傘下に持つJフロントリテイリングも同20.6%減と、各社とも1~2割減った。
とくに新型コロナウイルスの「第3波」とみられる感染急拡大が始まった11月下旬から来店客数が急減している。阪急阪神百貨店を展開するエイチ・ツー・オー リテイリングが「11月19日までは前年比90%で推移していたが、20日以降に82%と急失速した」と言うように、感染者数の増加が客足の減少にダイレクトに響いている。
一般的に百貨店の収益構造は、売り場に多数の販売員を配置するうえ、都心一等地の物件にテナント入居する店舗もあり、人件費や賃料などの固定費比率が大きい。そのため、損益分岐点が非常に高く、三越伊勢丹も90%前後に達するとみられる。コロナ禍によって売り上げが低迷する環境下では利益が急減する構造になっており、百貨店からの売り上げが大半を占める同社業績へのインパクトはその分大きくなる。
三越伊勢丹は今2021年3月期通期では450億円の最終赤字になる見通し。ただ、一番の稼ぎ時である年末年始という最悪のタイミングで感染が再拡大し、集客のためのセールも大々的には開催できない。下半期にかけて徐々に売り上げを回復させ、上半期に起きた未曾有の落ち込みを緩和しようというもくろみは早々に崩れかねない事態なのだ。
実際、パルコ事業と不動産事業とも2020年3~8月期のセグメント事業利益では黒字を確保。不振の百貨店をテナントビジネスで下支えする構図は、この分野で大きく出遅れている三越伊勢丹には欠けているものだ。
三越伊勢丹も約1700億円相当の建物と約5300億円相当の土地(2020年9月末時点)を保有している。都心の一等地に物件を保有する百貨店各社の中でも随一の規模で、近年ようやく不動産事業の強化に着手。三越日本橋本店に家電量販店のビックカメラが入るなど一部店舗でのテナント誘致や、ショッピングセンター(SC)運営の拡大を進めているほか、保有不動産周辺の再開発も検討してきた。
そうなると、インバウンド需要が回復するのを待つ間に、コストを削減するしか有効な手立てが見当たらない。同社は今2021年3月期中にも広告宣伝費や賞与などの販売管理費を1割程度削減する計画。店舗で接客に当たる人員を20%配置転換し、EC事業などで従来外注していた業務を内製化するなど、高コスト体質を変える取り組みも進める。
ただ、 コロナによる売り上げ低迷が想定以上に長引けば、地方の不採算店の追加閉鎖など、もう一歩踏み込んだリストラ策も必要になってくる。 杉江社長が「今の水準の売り上げが続いたとしても赤字にならないような取り組みを進める」と語るように、いかに聖域を作らず固定費を圧縮して損益分岐点を下げられるかが問われることになる。
最終更新日:12/8(火)14:34 東洋経済オンライン