「貼る」取っ手 売上増の謎

国内産業に大打撃を与え続けている、新型コロナウイルス。各所から悲鳴が上がる中、なぜか売り上げを伸ばした商品があります。「前年同期比130%増」という驚異の成長率をたたき出したのは、普段はその存在を意識しづらい、「ニッチすぎる」道具です。消費者心理を熟知した、巧みな販売戦略について、製造元メーカーに話を聞きました。(withnews編集部・神戸郁人)

タックハンドルが生まれたのは1989年。大手ビールメーカーの一社が、当時主流だった24本入りの缶ビールパックを半分に切り、12本入りにした「半切りケース」を売り出したことがきっかけです。松浦さんは振り返ります。

「かつて、箱の切り口部分にはふたがなく、取っ手も付いてなかった。消費者は抱えて運ぶことになるのですが、箱が地面に置かれている場合もあり、衛生的とは言えません。そこでメーカー側から、箱に貼り付け、持ち上げるための器具がほしいと依頼があったんです」

そこで目を付けたのが、同業他社が手がけていた、猫のトイレ砂の包装袋でした。運搬しやすいよう、袋の内側に、タックハンドルと似た形状の取っ手がついていたのです。「これを生かせないか」。社員たちはひらめきます。

松浦産業では、タックハンドルの生産向けに、紙袋用持ち手の製造器を改良。さらに粘着素材メーカーと共同で、「ホットメルト」という接着剤を開発します。市販品より固着力が強く溶けにくいため、他社製の取っ手と比べ、耐久性を向上させることに成功しました。

国内の大手ビールメーカー4社に採用され、接着剤の特許も取り、シェアを拡大します。その後、箱の両側面に貼り付けた取っ手を交差させ、持ちやすさと強度を高めた「Xシリーズ」も登場。活躍の場を一層広げていきました。

近年はECサイトの普及などにより、受注数が漸減しつつあったものの、昨年1年間に約1千万本を出荷。取引先の約半数は清涼飲料やビール、栄養ドリンクなどを扱う企業ですが、家電量販店も3割ほどを占めています。

実は、ここにウイルス禍における「商機」の芽が隠されていたのです。

年末にかけ、紙袋用取っ手の注文数は、徐々に改善しているそうです。松浦さんは今後、製袋メーカーとの関係を大切にしつつ、タックハンドルの販路開拓も並行して進めていきたいと話します。

「例えば通販サイトなどで商品を買う際、受け取り先にコンビニを指定する場合があります。大きな荷物が届いた場合、タックハンドルを付けて持ち帰ってもらう、というやり方は有り得るでしょう。サイト側に個人情報を知られたくない人々のニーズは高いと思います」

そして最後に、次のように決意を新たにしました。

「私たちは、取っ手を『把(と)っ手』と表記しています。幸せをつかみ、運ぶ存在でありたい。そんな思いで、これからもユーザーに寄り添っていけるよう、努めていこうと考えています」

最終更新日:12/4(金)3:53 withnews

引用:https://news.yahoo.co.jp/pickup/6378320

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