鬼滅 日本経済「希望の光」か

大人気アニメ『鬼滅の刃』に登場する“無限城”にそっくりだと話題になっている会津・芦ノ牧温泉にある「大川荘」。コロナ禍で観光業界は大打撃を受け、大川荘も例に漏れず一時期休館するなど自粛が余儀なくされていた。だが、SNSで『鬼滅の刃』の劇中に出てくる敵のアジト“無限城”に似ていると拡散されると、鬼滅ファンが訪れるなど、“聖地巡礼”効果が出ているという。複数回の映画上映による劇場存続、コラボ商品による小売店利益など、コロナ禍における『鬼滅の刃』旋風で改めて気づかされた“聖地巡礼”の可能性とは?



■三味線演奏まで酷似も「正式モデルではない」 奇しくも若い世代や家族連れが増加

 今年3月、とあるツイートがSNSで話題となった。福島県会津・芦ノ牧温泉にある「大川荘」が『鬼滅の刃』の敵ボス・鬼舞辻無惨のアジトであり、最終決戦の場である“無限城”に似ているという投稿だ。その色合いや空間全体が似ているだけでなく、かねてからお客様を出迎える三味線を弾くサービスも、同作の琵琶演奏の場面とリンクしている。

 この投稿に、多くのユーザーが「鬼舞辻が出てきそう」「実写版の映画のセットみたい」などお祭り騒ぎに。その後もこの半年間、ネット上で度々話題になっており、「会津が話題になってうれしい」「ここの岩盤浴は最高なのでぜひ」といった地元民からの喜びの声や、「実際に行きました」という“聖地巡礼報告”も寄せられている。

 実際、この投稿の反響や聖地巡礼効果はあったのか。大川荘広報に問い合わせてみたところ、「話題になってきた頃には休館をしましたので、予約や問い合わせが(昨年と比べて)増えたわけではございません。ですが、休館明けの7月からは、コロナ禍でお客様が全くいらっしゃらないんじゃないかと思っていたんですが、昨年と比べると6、7割ぐらいには回復できました」と回答。うれしい誤算で言葉に喜びをにじませていた。

 日帰り入浴のみの客が増えたほか、若い世代、家族連れの来館も増加しているという。また、客のなかには主人公の竈門炭治郎や禰豆子の着物の柄である羽織やマスクをして訪れる人たちがいるとのこと。

 特に“無限城”に似ているといわれているロビー中央の「浮き舞台」で記念撮影をする客も多いようで、「コロナによりとても不安な中、休館中から反響をいただき、もしかしたら…と希望の光として思っておりました。もちろん正式なモデルということではないのでこちらから何かすることはないですが、それでも大川荘を今まで知らなかった方にも知っていただき、ご来館いただくきっかけをいただけたことは大変うれしく、感謝しております」と同広報の声は明るい。

その『鬼滅の刃』の劇場版である『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』は、累計で動員1939万人、興行収入259億円を突破。現在、歴代興収ランキング3位まで上昇しており、今後どこまで順位を上げるかが話題になっている(11月24日現在)。コロナ禍で閑散としていた映画館に活気を取り戻したほか、コミックの累計発行部数は、1億部(電子版含む)を突破。出版業界にも大きな経済効果をもたらしている。

 それだけではない。数々のコラボ商品が発売されているが、これも驚異的なほどに好調だ。くら寿司では、コラボ商品第1弾の発売日である6月12日に、平日では過去最高となる全店売上高を達成。ローソンが6月に発売した『炭治郎の漆黒炒飯風おにぎり』は、一強であった『シーチキンマヨネーズ』をしりぞけ、6日連続の店頭売上1位を記録した。『鬼滅の刃』から派生する経済効果は、数千億に及ぶと言われる。

 これを受けてSNSでは「鬼滅、くら寿司の平日の売上の記録も変えた、ローソンのおにぎりの一日の売上も変えた、映画の初日の興業収入も変えたと、なんかもう景気がよすぎる」「日本の経済を立ち直らせてくれるのはあなたしかいない、という気持ちです」などという声が寄せられ、大きく拡散された。加えての“聖地巡礼”効果だ。先述の大川荘広報は「大川荘だけでなく、温泉街・会津全体に効果が広がればうれしいです」と期待を寄せる。

 さらに、長野県須坂市や奈良市柳生町にある巨石も、同作で炭治郎が厳しい鍛錬を経てようやく一刀両断する石にそっくりだと話題に。全国各地で、“割れ目の入った石”がある地域が突如観光スポットとして注目されるという異常事態が起きている。

 聖地巡礼自体は、最近始まった話ではない。古くは映画『ローマの休日』で、世界規模で多くの人がイタリア・ローマの「トレビの泉」や「真実の口」などを訪れたほか、映画『サウンド・オブ・ミュージック』でオースリアのザルツブルグが一大観光地に。日本でもドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)の聖地である横浜「カフェオムニバス」「北仲橋」「日本丸メモリアルパーク」「赤レンガ倉庫」「象の島パーク」が人気に。アニメ『千と千尋の神隠し』では台湾、『君の名は。』では飛騨古川駅、須賀神社、諏訪湖。『らき☆すた』の鷹宮神社などなど枚挙にいとまがない。

だが、ここで問題も起きる。モラルやマナーについてだ。『逃げ恥』でもロケ現場になった住宅地にファンが殺到し、住民の迷惑となったことが報道されている。『鬼滅の刃』でも迷惑行為が。大分県別府市の「八幡竈門神社」は、「竈門」が主人公の名字であることから聖地扱いされているが、ここで売られている1000円のお守りが3つセットで、フリマアプリで9800円という高値で取引を。同神社の宮司が「あくまでもお守りで誰かを想って渡すものなので、お金儲けの道具として転売されるのは困る」と苦言を呈した報道は記憶に新しい。

 また、これまで観光地として注目されていなかった地域が、突如“聖地巡礼”スポットとして多くの人が押し掛けると、それだけの人や車を収容するスペース確保、近所問題、ゴミの処理、環境汚染など、これまでさまざまな問題が挙がったことも事実だ。

 とはいえ、聖地巡礼の経済効果は計り知れない。『らき☆すた』の鷹宮神社では、神社がアニメとコラボするなど街をあげての盛り上がりとなり、埼玉県久喜市(鷲宮町は後に久喜市に編入)はアニメ放送後3年間で22億円もの経済効果があった。また2011年の『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』のクライマックスシーンを飾る、埼玉県秩父市の龍勢祭には11万人が殺到(前年は7万5000人)。コロナ禍である今、これほどの効果が見込めないだろうが、それでも青息吐息の観光業にとってはやはり“希望の光”だろう。

 大川荘は今後について、「休館明けからの反応をみていても、コロナ禍でも旅行や安らぎはかなり必要とされているものなのと感じます。大変な状況下でせっかくお越しいただくので、少しでも日常を忘れてゆっくりとしていただけるようにスタッフ一丸となってより良いおもてなしを目指してまいります」とコメント。

 基本、エンターテインメントは“不要不急”だ。だが一度ヒットすれば、これまで記してきたような大きな経済効果に発展することもある。モラルと感染対策はしっかり守りつつ、この“不要不急”から生まれた経済効果が日本を明るく照らしていく様に今後も期待したい。


(衣輪晋一/メディア研究家)

最終更新日:11/29(日)0:25 オリコン

引用:https://news.yahoo.co.jp/pickup/6377814

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