マンダム社長 男には男のメイク

コロナ禍で訪日外国人の需要が蒸発した化粧品業界。一方、オンライン会議の普及で新たな身だしなみニーズが生まれ、若年男性の間でコスメブームも続いている。そんな中、男性化粧品メーカーの老舗、マンダムでは、どんな一手で市場を深耕していくのか──。今年4月にトップに就任した西村健社長(39)に話を聞いた。

――マンダムといえば、古くは1970年代にテレビCMで起用した、俳優のチャールズ・ブロンソンが発した台詞、「う~ん、マンダム」で一世を風靡しました。

西村:当時はどちらかといえば男くさい、ワイルド系の商品イメージでしたが、その後、テレビCMで松田優作さんや本木雅弘さん、木村拓哉さんなどにご出演いただき、時代を経るごとにシンボリックな人も変わってきていて、最近では“中性的な”タレントさんたちの人気が高くなっていきました。

 韓国のK-POPが流行るようになったことも時代を映していますね。つれて、男性化粧品もかつてはヘアスタイルやデオドラント関連のケア商品だけだったものが、近年はかなり細分化されています。

 そこに至った要因の1つは、デジタル社会が浸透したことでプロでない一般の方でも、SNSに投稿した写真の精度やレベルが高くなったことがあると思います。

 デジカメでなくとも、いまはスマホでも高画素で高精細な写真が撮れるので、人から“見られる”という機会が、かつてに比べて格段に多くなりました。そのため、自分の清潔感や身だしなみに気を遣う方が増えているのでしょう。

――見られる対象も昔なら異性で、異性からモテたいために、おしゃれをしたり身だしなみに気を配るという動機だったのが、最近は少し違うようですね。

西村:異性からモテたいという意識はいまも昔も根源的にはあるでしょう。ただ、同性からの好感や清潔感を得たいという欲求が、いまの若い男性には、より強くあると思います。異性にモテたいという気持ち以上に、周囲の仲間と馴染んでいたいという意識といってもいいですね。

 昔、特にインターネットがまだなかった時代は、学校の部活動であれ遊びに行くのであれ、仲間や友人たちとの交流はほとんどがリアルの場でした。

 いまは、デジタル上で友人とつながってはいますけど、たとえばSNSでフォロワーや「いいね!」がたくさんついていたとしても、それは形があるようなないような、どこか曖昧なものじゃないですか。他人から認められる、あるいは一目置かれるとか、そういう状態を、より物理的に欲しているところはあるのかなという気がしています。

――若年男性の間では、ヘアスタイリング剤はもちろん、スキンケアもかなり当たり前になってきていますか。

西村:4年ほど前までは、高校生~20代前半の社会人のスキンケア商品の使用率は20%程度だったのですが、現在はだいたい35%くらいの方が使っているというデータがあります。

――スキンケアからさらに一歩進んで、メーキャップに入っていく男性も増えているようですが。

西村:いまや色つきのリップクリームは結構当たり前で、血色のいい唇で人に見てもらいたいという意識がありますね。

 ただ、彼らが日々接しているSNSには膨大な情報が洪水のように流れています。そこで自分好みのインフルエンサーを検索して探すわけですが、情報過多でついつい目移りしてしまい、ある種の検索疲れ、比較疲れみたいなもところも見受けられます。

 化粧品、あるいはファッション分野もそうですが、一定程度のセオリーや理屈があって、消費者はそうした情報をいわば「左脳」で処理するわけですが、一方で、人には誰しも直感的に「右脳」で楽しみたいという欲求もあって、それも大事な要素だと思っています。

――そういう意味では今年10月から、マンダムでは「ギャツビー ザ デザイナー」という新ラインのシリーズ商品を投入し、ストリートカジュアル系、ストリートモード系、韓流系に分けて、個性の違うヘアスタイリストを3人、共同開発・監修で起用しています。

西村:お三方とも非常に影響力のある方々ですが、それぞれでフォロワーを持っておられるし、ギャツビーブランドから出すメーキャップ商品という括りで言っても、ブランドの世界観がきちんとありますので、おしゃれや身だしなみを1つの世界観として楽しんでもらう提案をさせていただきました。

 当社は、時代時代の若い男性に化粧品という分野から常に寄り添ってきたメーカーですので、これまで蓄積してきた知見が数多くあります。

 ですから今回の新ラインのシリーズも、女性向けのメーキャップ商品をフォー・メンとして出すようは発想法ではなく、女性向けの商品よりも容器の太さや形状を持ちやすくするようにしたり、鞄の中がゴチャゴチャしないよう、アイブロウのペンシルとマスカラを「2in1」の商品設計にしたりと、「男には男のメイクがある」という点はかなりこだわって作り込みました。

 使い勝手の良し悪しはすごく大事な要素だと思いますし、使ってみて楽しい要素も重要。テクニカルな商品を出す時は特にそうですね。

――メーキャップをする男性は、顔の中でどこを一番気にするのでしょう?

西村:たとえば、メイクで小顔に見せたいというよりは、鼻筋をスッとさせて精悍に見せるとか。メイクで顔の陰影がくっきりすると、男性は女性よりも骨格がしっかりしているので、陰影を際立たせることでシャープに見せることができるのです。

――韓国では、アイドルをはじめメーキャップをしている男性有名人が多いと思いますが、韓国発で日本に入ってくるような美容トレンドもありますか。

西村:それは女性も男性もあると思います。男性向けは化粧品のアイテム数も多くはないのでそれほど目立ってはいませんが、たとえば当社のワックス商品のいくつかは、韓流系を好むヘアスタイルに適した商品があります。

 韓国の美容トレンドは日本でも浸透してきていますし、昔のように東アジアのトレンドは日本から発信、みたいなシンプルな話ではなくなってきています。

――韓国では美容整形なども日常風景ですしね。

西村:あくまでも私見ですが、確かに会社の昼休み時間を使って整形外科に行き、その足でまたオフィスに帰ってくるといったことが日常的にあるようですからね。昔に比べると、化粧品分野も韓国メーカーは少し強くなってきたと感じています。

――韓国以外のアジア、あるいは欧米のコスメ事情はどうでしょう。

西村:アメリカ人は髪質的にクセっ毛で細い人が多く、ジェル1つとってもいかにグロッシーに見せるかとか、整髪的な意味合いよりも魅せるほうに振っていたりしますね。ヨーロッパなら、フランスに代表されるようにフレグランスへのこだわりがあったりとか、国によっておしゃれのポイントが少しずつ違います。

 一方で、東アジアや北東アジアの人たち、特に北東アジアの人は、もともと持っている体臭自体が弱いですから、割とヘアスタイリングとかメイクに凝って化粧品を使う人が多いかもしれません。

―― マンダムでは40代以上のミドル世代に向けては、「ルシード」という商品シリーズがあります。ちょいワルオヤジとはいかないまでも、中年男性でもおしゃれや身だしなみに気を遣う人も少なくありません。

西村:たとえばコンシーラーを使用することで、ミドル男性の顔肌の見た目を即時的に変え、印象を変えることができますので、「ルシード」のニーズも底堅く、堅調に推移しています。

――今後、40代以上の層に向けた商品では、化粧品というよりヘルスケアに近いような領域に打って出る可能性もありますか。

西村:日本の事業だけを考えれば今後も少子化が進んでいきますし、人生100年時代と言われる中、40代以上のミドル層の市場もまだまだ魅力的です。

 長く社会で活躍していくには人からの見られ方にも気を配り、気持ち晴れやかに生きたいと考える人も多いと思いますから、われわれもエイジングに対してどうアプローチしていくか、といった観点も今後大事になってきますね。

――今後の男性化粧品市場はどのように変わっていくと思いますか?

西村:最近は若い方々があまりテレビを観ませんし、先ほども言いましたが必要な情報はスマホを介してSNSを見て得る傾向が強まっています。

 私がまだ高校生だった20年以上前は、化粧品はドラッグストアで買うのが一般的な時代でしたが、いまはEコマースであったり、ロフトさんで発売している「ギャツビー ザ デザイナー」のように、積極的に情報収集したりトライしたりする人たちは、従来とはちょっと違った販路からの購入を志向する傾向があります。

 マンダムは従来、マスマーケティングが得意でずっとそれをやってきたのですが、そこからなかなか変われない部分もあったのは事実なので、今後もデジタルや多様化した嗜好への対応など、新しいアプローチも積極的に仕掛けていきたいですね。

 いま、どの業界でもジェネレーションギャップがすごく大きくなっていると思うんです。昔の50歳と30歳のギャップと、いまの50歳と30歳のギャップを比較してみると、明らかにいまのほうが差は広がっていますし、われわれは「ギャツビー」をはじめ若い人たちに向けた商品も多いですから、若年代の悩みを商品面から解消してもらえるようなマーケティングにも力を入れていきます。

――最後に、西村社長ご自身は毎朝、スタイリングやスキンケアにどのくらいの時間を割かれているのでしょうか?

西村:私は朝、結構時間がかかるほうでしてね。家を出る1時間半前ぐらいに起きますが、なんだかんだで30分ぐらいは鏡の前にいるかもしれません(笑い)。クセっ毛ということもあって短髪スタイルで通していますので、髪型を整えるのは短時間で済みますが、髭が結構濃いほうなので髭剃りで整えるのに時間を割き、ごく控えめにメイクをすることもあります。

【プロフィール】
西村健(にしむら・けん)/1982年5月生まれ。早稲田大学卒業後、2008年4月マンダム入社。マンダムシンガポール出向、人事部、欧州駐在でMBAを取得後、2017年に執行役員就任(経営戦略担当)。2018年常務執行役員(マーケティング統括、広報部、新規ビジネス開発)を経て、2021年4月代表取締役社長執行役員に就任し、現在に至る。

●聞き手/河野圭祐(経済ジャーナリスト)
●撮影/内海裕之

最終更新日:12/12(日)8:33 NEWSポストセブン

引用:https://news.yahoo.co.jp/pickup/6412177

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