「早い、安い、うまい」
牛丼チェーンのキャッチコピーは、いつまで維持できるのか。牛丼チェーンの吉野家が10月末、値上げに踏み切りました。
定番商品である「牛丼並盛」の店内飲食価格は、改定前の387円から426円に。価格の10%にあたる39円の値上げです。
値上げは実に7年ぶり。吉野家はこれまで値上げや値下げを繰り返してきていますが、426円は史上最高価格です。
背景には、世界的な肉不足と価格の高騰があります。牛丼の材料として使われる米国産のショートプレート(牛バラ肉)の価格は、この1年で1.7倍に上がりました。
こうした「ミートショック」と呼ばれる肉価格の上昇は、「一過性のものではない」と、食肉業界に詳しい資源・食糧問題研究所の柴田明夫代表は語ります。
肉の値段はなぜ上がっているのか。これから肉は贅沢品になってしまうのでしょうか。柴田氏への取材をもとに、わかりやすく解説します。
そもそも、「ミートショック」はなぜ起きたのでしょうか。食肉市場に詳しい資源・食糧問題研究所の柴田明夫代表は、次のように説明します。
「最初に豚肉が上がり、牛肉が上がり、鶏肉も上がってミートショックになりました。肉の値上がりの背景には、輸出国それぞれの事情もありますが、共通しているのは中国の輸入の拡大です。日本は、中国と食肉の輸入で競合していますが、円安も相まって中国に「買い負け」している状況です」
中国では経済成長に伴って肉の需要が増えています。これまで肉をあまり食べなかった人たちの食生活が変わり、14億人の胃袋が肉食化しているのです。
一方で、中国国内の生産能力拡大は頭打ち。そのため、大量の胃袋を支えるために、海外産の肉への依存度が高まっています。
中国で需要が増えたとしても、日本がより高い価格を出せば購入できるはず。しかし、円安によって日本企業はより多くのお金を費やさないと入札できない苦しい状況が続いています。
さらに、中国と日本では牛肉の買い方にも違いがあると、柴田氏は指摘します。
これまで、日本は米国から牛タンや牛丼の材料になるショートプレートを安く輸入できました。しかし、中国は牛を「一頭買い」で丸ごと買うことが多いため、こうした部位だけを安く買うことが難しくなってきています(柴田氏)。
OECD(経済協力開発機構)によると、世界の肉の消費量は2030年に2018~2020年の平均値から14%増えると予想しています。
肉需要はまだまだ増え続ける見込みで、需給をバランスさせていくには供給を増やすしかありません。
供給面を脅かすのは、穀物価格の上昇だけではありません。労働力不足もまた、生産活動にマイナスのダメージを与えています。
例えば、牛肉の輸出量が大きいアメリカでは、経済の急回復によりさまざまな分野で採用が活性化しています。ただし、新型コロナウイルスの影響で外国人労働者の入国規制が続いているため、採用の中心は国内の労働者。
そのため、外国人労働者への依存度の高い畜産や食肉加工に関わる人材が不足しているのです。
こうした業種では、取り合いになっている国内の労働者を確保できておらず、また採用できたとしても賃金が高いため、商品価格に反映せざるを得ません。
鶏肉の輸入元であるタイでも、労働者不足が深刻です。
日本では、スーパーなどで家庭向けに売られている肉は国産が多くなっていますが、コンビニの唐揚げや飲食店など業務用では、タイやブラジルからの海外産の鶏肉が使われています。
そのタイでも、外国人労働者の受け入れが難しくなっており、鶏肉の加工に関わる労働者が不足しています。
コロナの影響で閉鎖されたり、感染対策で大人数での作業が難しくなったりしている食肉工場もあるため、タイ産の鶏肉価格も上がっています。
労働力不足という言葉はよくニュースで耳にしますが、身の回りで起きていなければなかなか実感が湧かないものでしょう。
しかし、こうして商品価格に反映されてくると、その深刻度を把握できます。
ちなみに、日本への牛肉の最大の輸出国であるオーストラリアでは、2018年から深刻な干ばつが起きており、供給に影響が出ています。
オーストラリアでは、牛を主に牧草で育てているため、牧草が少なくなれば、牛の殺処分を増やして頭数を減らさざるをえません。
そのため、干ばつの影響で牛の頭数が減っており、供給できる肉の量が少なくなっているのです。
今後、いつまでこのミートショックは続くのでしょうか。
最終更新日:12/6(月)12:42 NewsPicks