過去に水害 不動産価格なぜ不変

近年、台風や集中豪雨による水害が深刻化している。2019年には台風19号などで、水害被害額は統計開始以来最大となる約2兆1800億円を記録した。このため国は、住宅販売などの不動産取引時における「水害ハザードマップ」の提示を義務化するなど、法改正に乗り出している。では、実際に被害を受けた首都圏の地域では、どんな変化が起きているのか。住民や不動産業者らを取材した。(ジャーナリスト・小川匡則/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)

近年、夏から秋にかけて線状降水帯や台風が頻発し、洪水や土砂崩れなどの甚大な水害が各地で起きている。2019年の台風19号では、安全とされていた神奈川や東京の都市部でも、道路の冠水や住宅の浸水といった被害が発生した。この年の全国の水害被害額は、統計開始(1961年)以来最大となる約2兆1800億円にのぼった。

「今ものすごく不動産の価格が落ちているかというと、実はそれほど落ちていません。もっと言えば、川の付近でもびっくりする値段で買われている状況です。(台風被害の実情を)知らない人たち、特に都内の不動産業者が建売住宅の用地として買ったりしているからです」

高津区にある不動産業、ライジングサンの担当者はそう語る。実際、久地1丁目の公示地価は2018年には1平方メートルあたり34万2千円だったが、翌年の水害後も上昇し、今年は1平方メートルあたり36万7千円にまで上がっている。戸建ての価格も、水害前と比較してほとんど変わっていない。

むしろ変化があるのは、賃貸の物件だと同担当者は指摘する。水害で浸水した地域のマンションやアパートの賃貸は敬遠され、現在もあまり埋まっていないようだ。

「高津区の一部エリアは完全に水没するほどの被害でした。物件を探す人には、紹介時にそうしたことを重要事項説明として言わなくてはいけない。すると、最初は『いいですねぇ』と言っていた人が、現地を訪問し、やめていってしまう。とくに昨年からは新型コロナの影響で、(通常だと貸し借りの動きが多い)単身者の動きが乏しいのですから、わざわざリスクがあるところを選ばないのでしょう」

高津区から多摩川を渡ると東京・世田谷区の二子玉川に近い地域になる。創業60年という二子玉川不動産に話を聞くと、こちらでも「災害リスクが不動産価格に影響を与えているとは思えない」と語る。

ただし当然ながら、需要が高くても災害リスク自体は変わっていない。だからこそ、国もさまざまな水害対策に乗り出している。

10月の日曜、多摩川につながる平瀬川の土手を歩いていた男性(42)に声をかけた。久地地区の住民だった彼は、こちらの問いにまもなくこの土地を離れる予定だと話した。

「もう引っ越します。新型コロナの影響で自宅勤務が多くなったので、より広い部屋に住みたいと思ったからです」

男性は中国出身で20年ほど前に来日し、久地地区には10年ほど住んできた。マンションの上階に住んでおり、台風19号の時にも直接的な被害はなかったという。それでも近隣一帯が水に浸かった光景は目にした。台風などの自然災害のニュースはよく見ていたが、そんなリスクがすぐそばで起きるとは思わず、ショックだったと振り返った。そして昨年来、妻とともに別の土地に新居を探し始めた。

最終更新日:12/4(土)10:07 Yahoo!ニュース オリジナル 特集

引用:https://news.yahoo.co.jp/pickup/6411498

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