会社員にとっては「年末調整」の時期になった。毎年、会社から求められるまま、書類とともに保険などの控除証明書をまとめて会社に提出し、手続きしていることだろう。そこで、意外に忘れやすいのが、個人型確定拠出年金「イデコ(iDeCo)」の控除手続きだ。忘れると、せっかくのイデコのメリットである節税効果を逃してしまう。実は、気づきにくいのはそれなりの事情もがあるようだ。【毎日新聞経済プレミア・渡辺精一】
◇年間通じた納税額を確定
所得税は、その年の1~12月に得た収入から各種控除を差し引いた所得にかかる。会社員など給与所得者は、毎月の給料から税が天引きされ、会社が本人に代わり納付している。これを「源泉徴収」という。
だが、年間を通じてみれば、会社が毎月納めてきた税額が必ずしも正しいとはいえない。そこで、各種の控除などを反映して、年末に最終的な納税額を確定し、払いすぎの場合は還付、不足の場合には徴収する。これが「年末調整」だ。
11月ごろになると、会社から年末調整の書類提出を求められる。それに必要事項を記入し、各種の控除証明書を添えて提出すればいい。
基本の書類は、扶養する家族に関する控除を受ける「扶養控除等申告書」▽生命保険など支払った保険料の控除を受ける「保険料控除申告書」▽自分や配偶者に関する控除を受ける「基礎控除申告書兼配偶者控除等申告書兼所得金額調整控除申告書」――の三つで、昨年と変わらない。住宅ローン控除を受けている人はさらに「住宅借入金等特別控除申告書」が必要だ。
控除証明書は、生命保険料や地震保険料については保険会社から送られた書類などだ。住宅ローン控除については金融機関から送られた借入金の年末残高証明書を添える。
◇なじみが薄い「小規模企業共済」
ここで、意外に見落としがちなのが、イデコで支払った掛け金の控除申請だ。イデコで積み立てた掛け金は所得の対象外で、全額が所得控除されて税金が戻る。だが、そのためには年末調整などで手続きが必要だ。何もしなければ掛け金に課税されてしまう。
同じ確定拠出年金(DC)でも、企業が掛け金を負担する企業型DCは、掛け金は本人の収入ではないため所得税の対象にならず、自分で手続きする必要はない。イデコとの大きな違いだ。
イデコでは、会社員の掛け金上限は月2万3000円、年間では27万6000円になる。年収600万円のケースで考えると、多くは所得税率約10%・住民税率10%となるため、税額分約5万5200円が戻る。
これほどの節税効果があるイデコで、手続きに見落としが生じるのは、それなりの理由がありそうだ。
イデコの所得控除は、税制上「小規模企業共済等掛金控除」になる。もちろん年末調整の書類や控除証明書にもそう記載されている。
小規模企業共済とは、従業員20人以下の小規模事業所の個人事業主や役員が、廃業や退職後の生活のために積み立てる一種の退職金制度で、その掛け金は全額所得控除される。税制上は、イデコの掛け金もそれと同じ扱いになるわけだ。
だが、これは一般の会社員にはなじみの薄い名称だ。直感的に「イデコと関係がある」と気づきにくい。
イデコ加入者には、年末調整前にイデコの実施主体である「国民年金基金連合会」から控除証明書のはがきが届く。はがきは、三つ折りの圧着型になっており、中を開くと、年末調整の手続き方法が示されている。
そこでは、手続きは「保険料控除申告書」の「小規模企業共済掛金」欄の「確定拠出年金法に規定する個人型年金加入者掛金」欄に支払った額を記入すればいいと説明されている。この通りにすれば問題ない。
だが、このはがきは「小規模企業共済等掛金控除証明書」と大きく赤字で印刷されており、そもそもイデコに関係した書類だとは気づかない人がいる。
また、生命保険や地震保険は契約している保険会社から控除証明書が送付されるが、イデコのはがきは、口座のある金融機関ではなく、一般にはなじみの薄い国民年金基金連合会から送られてくる。
こうして「よく分からないので捨ててしまった」というケースも少なくないとされる。
会社員がイデコに加入する際は、会社が交付する「事業主の証明書」が必要となるため、会社は社員のイデコ加入状況を把握している。イデコ加入者が年末調整で手続きをしない場合、注意喚起してくれる親切な会社もあるが、基本的には本人の申請にゆだねられる。
◇間に合わなければ「還付申告」
それでは、年末調整でイデコの手続きを忘れてしまったり、そもそも控除証明書を紛失して手続きできなかったりする場合は、どうすればいいのか。
年末調整に間に合わなくても、確定申告で還付が受けられる。今年の所得税の確定申告は通常、来年2月16日~3月15日に申告するが、税金の還付を受ける「還付申告」なら来年1月1日から申告が可能だ。イデコの控除証明書と源泉徴収票を添えて、確定申告書を税務署に提出すればいい。
この還付申告は5年間行うことができる。過去に忘れているものがあるなら、さかのぼって申告すれば税が戻る。
イデコの控除証明書を紛失した場合は、金融機関に再発行を申請すればいい。金融機関を通じて、国民年金基金連合会から送られる。大手ネット証券の場合、再発行の申請から約2週間程度で郵送される見込みだ。
最終更新日:11/15(月)9:30 毎日新聞