逆風一転 街の洋菓子店復活兆し

コンビニスイーツなどに押されていた「街の洋菓子店」が、コロナ禍で復活の兆しを見せている。帝国データバンクの調査では、2021年1~10月の洋菓子店の倒産は前年同期比約3割減の18件にとどまり、過去10年で最も少ないことが分かったほか、廃業件数も前年を下回って推移している。このペースが続けば、通年の倒産件数は2年連続で前年を下回るほか、過去10年間で最少を更新する可能性も出てきた。

 「街の洋菓子店」ではこれまで、安価で高品質、充実した品ぞろえで利便性も良い「コンビニスイーツ」などに客足が奪われていたほか、通販など購買チャネルの変化に対応できず、スイーツ需要拡大の恩恵を受けることができない状態が続いていた。また、小麦やバターをはじめ洋菓子作りに必要な原材料の多くで値上がりが相次ぎ、利益率も低下するなど経営環境も悪化したことで、2019年には過去最多の49件の倒産が発生。「モンブラン」(兵庫)をはじめ地域有名店でも倒産が相次いで発生するなど、「街の洋菓子店」にとって強い逆風が吹いていた。

 しかし、コロナ禍となった2020年以降は一転して洋菓子店を取り巻く環境が一転した 。巣ごもり需要の拡大で「自宅で食べるスイーツ」需要が高まった一方、ショッピングモールや百貨店などが休業し、身近な「街の洋菓子店」へ客足が流れた。また、「プチ贅沢」需要を背景に、一度はコンビニスイーツに流れた客足が専門店へ戻り始めるなど好循環が生まれていることが主な要因となり、一転して追い風が吹きはじめている。

今後も引き続き、洋菓子店では需要増が続きそうだ。特に、今年は昨年に続いて中高価格帯のクリスマスケーキで予約が好調といった動きもあり、年末にかけて洋菓子店の売れ行きは堅調に推移する見込みだ。ただ、小麦やバターなどスイーツづくりに欠かせない原材料費が足元で高騰している。

 農林水産省によれば、輸入小麦の政府売渡価格は2021年10月期で1トン当たり61820円だった。同年4月期の価格から19%上昇し、 13年ぶりの高値となっているほか、バター や砂糖 などの販売価格も足元では上昇傾向で推移している。原材料価格の高騰は、販売価格に転嫁しづらい中小洋菓子店にとって利益圧迫要因となる。また、有名パティシエとコラボしたPB商品や、健康意識や環境意識の高まりに配慮したスイーツ展開などで差別化を図るコンビニや大手スーパーなどとの競争も厳しさが増している。そのため、コロナ禍後も流れてきた客足を逃さない「街の洋菓子店ならでは」の工夫が今後も求められる。

 一方で、これまでに洋菓子店が持たなかった武器も増えている。その一つがSNSの活用によるブランディングや販売機会の獲得だ。Twitterなどを活用した洋菓子店ならではの強みやトレンドの発信、「専門性」のアピールが売上増加につながる事例もあり、これまでと異なる成長が期待できる。実際に、丸くて柔らかいパン生地に生クリームを挟んだ菓子「マリトッツォ」は、ボリューム感のある見た目が写真映えするとしてSNS上で人気が急上昇、洋菓子店での売上を押し上げる起爆剤にもなった。

 対応が遅れていたネット通販への取り組みも、単純な販路の拡充だけではなく、洋菓子店それぞれの特長や美味しさを全国にPRできる有用なツールとして急速に普及している。ケーキ通販サイト「Cake.jp」では、2017年1月にサービスを開始して以降、全国各地の洋菓子店と提携。自宅やレストラン、職場などどこでも好きなケーキを届けることが強みで、個人会員数は70万人を有する。加盟店舗数も「コロナ禍がきっかけでECの重要性を意識する店舗が増えた」(広報)ことも背景に1500店舗に到達するなど好調で、「出店により売り上げが10倍に増えた」(同)との声もあるという。

 コンビニスイーツなどに押されて一時は苦境に陥ったものの、コロナ禍で独自のファンやリピーターを獲得し復活の兆しをみせている街の洋菓子店。独自のプレミアム感やテーマ性、世界観といった「専門店ならでは」の新たな魅力を全国に発信できるSNSや通販といった武器を手に、今後どのような巻き返しを見せるのかが注目される。

最終更新日:11/13(土)14:05 帝国データバンク

引用:https://news.yahoo.co.jp/pickup/6409657

その他の新着トピック