「物言う株主」との対立が続いていた東芝が3社に分割・再編する計画を公表した。株主への圧力問題や英投資ファンドによる買収騒動など迷走を繰り広げた末にひねり出した価値向上策だが、実現にはガバナンス強化や経済安全保障との両立など課題が山積している。日本の産業史に残る名門企業の分割には、いばらの道が待ち構えている。
◇賛同は不透明
「この方策が最善の道と信じている」。東芝は今回の計画で、2023年度下期にインフラ事業とデバイス事業をそれぞれ独立した会社として上場させる方針を示した。経営環境の異なる複数の事業を抱えることで企業全体の価値が低く評価されることを防ぎ、株価の向上を図るのが分割計画の狙いだ。
来年1~3月に開催する臨時株主総会に計画を諮る予定。綱川智社長は12日にオンライン形式で開いた記者会見で、「株主の承認を得られると考えている」と自信を見せた。ただ、首尾よく賛同を集められるかどうかは不透明だ。
◇株主との対話課題
東芝は、17年の巨額増資に応じた海外ファンドへの対応に苦慮してきた。昨年の定時株主総会では独自の取締役選任を求める株主提案を封じるため、経済産業省と一体になって圧力をかけたことが明らかになり、批判を浴びた。
12日公表された東芝の「ガバナンス強化委員会」の報告書は、物言う株主からの株主還元や事業売却の要求を過度に警戒し、健全な関係を構築しようとしなかったと同社を批判。「行政庁に過度に依存する体質」を問題視した。
◇ガバナンス空白
社長として株主との対立を先鋭化させた車谷暢昭氏は今年4月、古巣の英投資ファンドCVCキャピタル・パートナーズからの買収提案をめぐり、社内外から強い反発を招き、社長を突如辞任した。混乱のさなかに急きょ再登板した綱川氏は、あくまで「つなぎ」と位置付けられており、後任探しが続く。
一方、今年6月の定時株主総会では、圧力問題で不信感を募らせた株主によって、取締役会議長としてガバナンスを主導していた永山治氏の取締役再任案が否決される事態に発展。これ以降、綱川氏は暫定的に議長も兼務しており、分割計画を進めるにはガバナンスの空白解消が急務となる。
◇経産省が関心
綱川氏は、今回の分割・再編計画を経産省に事前に説明したと明かした上で「特にネガティブな反応はなかった」と述べた。同省は、経済安全保障にとって重要な原子力発電関係や半導体などの事業を持つ東芝の行く末に、なお重大な関心を寄せている。
約12万人の従業員を持つ東芝の分割には社内の反発が予想されるほか、煩雑な手続きも残る。企業体質の改善とともに、計画遂行に向けた強いリーダーシップの確立が求められる。
最終更新日:11/13(土)14:13 時事通信