JR渋谷駅の埼京線ホームに設置されている視覚障害者用の音声案内スピーカーが、不適切な方向に設置されている。読者からの投稿フォーム「つながる毎日新聞」に寄せられた情報を基にした取材で判明した。埼京線のホームにはホームドアは設置されておらず、最悪の場合、視覚障害者が線路に転落する恐れがある。国のガイドラインに反する設置方法で、JR東日本は取材に「当該箇所について早急に改善方法の検討をし、準備が整い次第実施する」としている。【道下寛子/デジタル報道センター】
バリアフリー法に基づく国土交通省の「公共交通移動等円滑化基準」は、高齢者や障害者の安全を確保するため、公共施設に点字ブロックまたは音声案内などを設置することを義務づけている。音声案内による誘導は、視覚障害者にとって改札口や階段の位置などを知らせる重要な情報の一つで、改札や地下鉄の地上出入り口では「ピーンポーン」という音で案内したり、ホームの階段では鳥のさえずりを模した音を使ったりしている。
10月に「渋谷駅のホームにある音声誘導装置のスピーカーの向きが階段の方向ではなく、ホームに向かっている。視覚障害者が改札方向と勘違いして、ホームから転落する危険はありませんか?」という匿名の情報が毎日新聞に寄せられた。
この情報を基に記者が、視覚障害者で渋谷区視覚障害者福祉協会の大沼須摩子会長(76)とガイドに同行を求めて渋谷駅を確認したところ、埼京線のホームには3カ所の階段近くの頭上に音声案内のスピーカーが設置されていたが、いずれも線路方向を向いていた。大沼会長は「この設置の方法では危ない。最悪の場合、隣のホームを歩いている人が階段の方向と勘違いして転落してしまう」と話した。また、山手線のホームでも未設置だったり、音が鳴っていないスピーカーがあったりすることも確認された。
国交省によると、スピーカーが線路方向を向いていると、隣のホームにいる視覚障害者が誤って線路方向に歩いてしまう恐れがあるなどの理由で、スピーカーは線路と平行に向けることが望ましいとしている。
◇JR東日本「改善する」
JR東日本広報部に、現在の設置状況に問題がないか尋ねると、同部は「今回のご指摘を受け、改善する。階段の上の鉄骨の状況などから、2020年6月から今の状況だった」と回答。山手線のホームで1カ所が故障し、1カ所で未設置になっていることも認めた。
そもそも、音声案内が未設置の駅も多い。東京メトロは同社が管理する172駅のうち、137駅の出入り口、階段、改札、ホームなどに設置しているが、JR東日本では1619駅のうち、ホームに音声案内を設置しているのは628駅と4割を下回るという。
日本視覚障害者団体連合は国交省に、音声案内などを設置するよう要望している。同連合の三宅隆組織部長は「私たちは点字ブロックや音声案内、人の気配などの環境音といった情報を使って移動している。音声案内も大事な情報なので、未設置の駅は設置してほしい」と話した。
最終更新日:11/11(木)22:06 毎日新聞