淡路島に移住 パソナ社員の今

総合人材サービスのパソナグループが、東京から兵庫県淡路島へ主な本社機能を移転すると発表して間もなく3カ月となる。新型コロナウイルス感染拡大で働き方が見直される中、2024年5月末までに社員約1200人が島に移り住む大胆な計画は、脱・東京一極集中の試みとして注目を集める。実際に東京から島へ移ってきた社員に、現在の心境を聞いた。(上田勇紀)



■東京にいた時の“常識”が、今は…

 同グループ経営企画部の岡田智一さん(38)。グループ会社で働く妻(38)、2歳の長女と一緒に9月1日、東京から兵庫県淡路市のマンションに転居した。岡田さんは千葉市出身で、大学以降はずっと東京暮らし。夫婦とも関西にゆかりはなく、淡路島へは就職後、研修などで訪れたことがある程度だった。

 「コロナが広がり始め、テレワークをしていた2月ごろから、地方暮らしを考えた。東京のオフィスはビルに囲まれて殺風景で、自宅もマンションが並ぶ場所。自然を感じながら働けたらと思った。娘もコロナ禍のため外で遊べず、近くの公園も混んでいた。のびのびと外で遊ばせられる環境で子育てしたいと考え、妻とも話していた」

 そんな中、社内で淡路島への本社機能移転計画が本格化。最終的に、7月に島への移住希望を上司に伝えたという。

 「親や友人とは会う回数が減るので、寂しさはある。ただ、住んでみて驚いたのは、思った以上に不便を感じないこと。自宅近くには多くの店があり、歩いて何でも買える」と話す。娘は淡路市内のこども園に入れられた。娘がなじめるかが一番の心配だったというが、気に入った様子で、休みの日には、近くの海や公園に家族で遊びに行く。仕事も経営会議の取りまとめなど、東京のころと変わらないという。

 岡田さんは東京で、満員電車に片道1時間揺られる“通勤地獄”を経験した。それが嫌で都心に移ったが、1LDKと家族には手狭なのに家賃は高騰。一方、今回移り住んだ淡路市のマンションは3LDKで、家賃は月約10万円安くなったという。通勤には社有車のカーシェア制度を使っている。

 「東京にいたときは、あれが常識だった。今思えば、東京の生活が異常だった。なぜあんなにお金を払って東京に住んでいたんだろうって」

 とはいえ、生活は大きく変わった。将来への不安はないのだろうか。

 「神戸へは車で30分で行ける。淡路島は田舎というより都会だと思うし、割と何でもそろうから、神戸へはまだ2回しか行っていない。遠くの人ともテレビ電話で話せるし。ちょっと携帯の電波が弱いときがあって、それは課題かな。今回の自分自身の移住も、社会に対して一つの働き方の提言になると思う」

【パソナグループ】神戸市垂水区出身の南部靖之代表(68)が1976年、関西大学在学中に、前身の人材派遣業を大阪市に創業。直後に拠点を東京に移した。人材派遣の草分けとして業績を伸ばし、93年に社名をパソナに変更した。現在は人材派遣のほか企業内保育所運営や農業、観光などにも力を入れる。グループ・関連会社は78社あり、海外14の国・地域に58拠点を持つ。契約社員らを含めた従業員は約2万人。連結決算の売上高は約3250億円(いずれも今年5月期)。

■社員1200人、24年春までに島内へ

 パソナグループは2008年、淡路市内に若い世代らの独立就農を支援する農場「パソナチャレンジファーム」を開設。この取り組みを皮切りに、淡路島内で事業を拡大してきた。

 力を入れるのは観光事業だ。12年には閉校した同市の旧野島小学校を改修し、農産物直売やレストランの複合施設「のじまスコーラ」をオープン。また県立淡路島公園内に17年、人気アニメなどを題材にしたテーマパーク「ニジゲンノモリ」を開いた。

 インバウンド(訪日外国人客)の取り込みも見据え、その後も人気キャラクターのハローキティがテーマのレストランや、宿泊できるグランピング施設などを次々と開設している。

 コロナ禍を機に、主な本社機能移転を発表したのは今年9月1日。管理部門社員約1200人が、24年5月末までに順次、島内に移り住んで働く計画だ。働き方の見直しや、災害に備えた拠点分散などが目的で、6月以降、新入社員を含めて既に約120人が移った。

 島内には従来、同市夢舞台にオフィスがあったが、3月からはレストランなどが入る「クラフトサーカス」(同市)2階も活用。10月には同市内に、子育て中の社員向けの設備などを整えたオフィスも開いた。

 課題は社員の住居確保で、既に同市内で賃貸物件約150室を押さえ、新たな社宅建設も検討している。

最終更新日:11/22(日)21:20 神戸新聞NEXT

引用:https://news.yahoo.co.jp/pickup/6377279

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