航空業界に大打撃を与えた新型コロナウイルスの世界的大流行。国際航空運送協会(IATA)の10月上旬の発表によれば、各国の国内線で需要回復の兆しが見える一方、国際線では入国制限などから厳しい状況が続く見通しだという。
先行きが見えないなかで当然、航空業界から去る人たちもいる。日本の航空会社で国際線キャビンアテンダント(CA)として勤めていた上田光さん(25歳)は今年、まったく異なる仕事に“コロナ転職”。新たな道を歩き始めている。
とはいえ、一般的に“憧れの職業”のひとつであるCAから転職することには大きな葛藤があったに違いない。今回は、上田さんの大きな決断と「その後」に迫った。
海外に思いを馳せるなか、上田さんは4年生で中東のドバイを訪れた際、「将来はここに住む」と決意する。アジアとヨーロッパ、歴史ある遺産と近代的な建造物、あらゆる人種や文化が混ざり合い、“多様性”を受け入れていることに衝撃を受けたのだ。
「日本で報道されているような中東のイメージとは違っていました。ドバイに住むためにはどうしたらいいのか考えたとき、エミレーツ航空(ドバイが本拠地の航空会社)のCAになればいいんじゃないかって」
そこからは急ぎ足の就職活動だった。TOEIC830点、英検準1級、CAとしての作法に役立つのではないかと秘書検定を取得した。
しかし結局は、第一志望のエミレーツ航空や同じく中東のカタール航空などには英語面接で落ちてしまう。そんななか、ある航空会社から内定を得る。
「東京五輪のインバウンド需要を狙って例年よりも採用数が拡大していた時期だったので、運が良かったのかもしれません」
「いちばん精神的にツラかったのが『仕事がない』ということ。20代でたくさんの経験を積みたかったんです。接客において、実務が何もないなかで『自分は成長していない』と思い悩むようになりました」
久しぶりに出社してみると、電気は消されて薄暗かった。ふだんは賑わっていた更衣室がしんと静まり返っている。コロナ禍が、多くの人たちの仕事を奪った現実を目の当たりにした。
「エミレーツ航空は大量リストラ。航空業界全体が落ち込み、この状態が何年続くかもわからない。希望者には出向して電話受付やデータ入力の仕事がありましたが、それは私のやりたいことではありませんでした。このまま成長を実感できないまま、時間を無駄にしたくない。そして、転職を意識するようになりました。ただ、自分は一歩外に出てしまえば、“スキルが何もない”と思って」
実際、転職活動には困難が待ち受けていた。
ようやく緊急事態宣言が解除され、最近は週1~2回程度は出社。福利厚生の一環で食べられるランチを楽しみにしているそうだ。同僚たちと海外旅行に行けば、会社から補助金も出るという。そんな環境で充実した毎日を過ごしている。
「コロナ禍が終わりを迎えてもCAには戻れないと思います。弊社は平均年齢が若く、私の部署は全員中途採用で入った人たちなので、とにかく風通しが良い。提案すればどんどん任せてもらえます。
会社と自分の成長を実感するなかで、ゆくゆくは英語を活かして海外事業を開拓するなど、飛躍に貢献したいと思っていますね」
人生の幸福度を決める要素のひとつとして、「仕事」は切っても切れないものだ。転職活動とは、言い換えると、その人にとって「幸せとはなんなのか」を探す旅。上田さんの晴れやかな表情がすべてを物語っているようだった。
<取材・文・撮影/藤井厚年>
―[「コロナ転職」のその後]―
【藤井厚年】
Web/雑誌編集者・記者。「men’s egg」編集部を経てフリーランスとして雑誌媒体を中心に活動。その後、Webメディアの制作会社で修行、現在に至る。主に若者文化、メンズファッション、社会の本音、サブカルチャー、芸能人などのエンタメ全般を取材。趣味は海外旅行とカメラとサウナ。Twitter:@FujiiAtsutoshi
最終更新日:11/3(水)18:14 週刊SPA!