酒離れ ハードセルツァーの勝算

米国などで人気が急拡大している炭酸入りの低アルコール飲料「ハードセルツァー」が日本でも注目を集め始めている。米コカ・コーラが9月に日本市場に初参入し、日本で先行するサッポロビールやオリオンビール(沖縄県)との競争が熱を帯びてきた。ただ、日本ではすでに市場が確立している缶チューハイとの類似性が指摘されるうえ、ターゲットになる若者のアルコール離れも進む。こうした中でどこまで消費を広げられるか。業界の関心が高まっている。



■世界では12%の成長率

ハードセルツァーとは、ハード(アルコール入り)のセルツァー(炭酸水)を意味し、蒸留酒か醸造酒を含む炭酸水に果汁や果実フレーバーなどを添加している。

蒸留酒には糖質や、小麦に含まれるタンパク質の一種であるグルテンがなく、炭酸入りで低アルコールのためカロリーが抑えられているのが特長。使っている酒はサトウキビ由来が多いが、「ハードセルツァーに決まった定義はなく、海外ではビール大手などの参入が相次いでいる」(複数の業界関係者)という。

米国では高まる健康志向への訴求や、おしゃれな缶のデザインなどから若者を中心に人気を広げている。米調査会社「レポートオーシャン」によると、世界市場は2019年で38億3190万ドル。21~27年の年間平均市場成長率は12・7%となり、27年までに100億ドルを超えると予測されている。

日本では今年3月にオリオンビールが「DOSEE(ドゥーシー)」(250ミリリットル缶、想定価格150円前後)を、8月にサッポロビールが「サッポロ WATER SOUR(ウオーターサワー)」(350ミリリットル缶、税別141円)を相次ぎ発売した。サッポロは今年の年間計画70万ケース(1ケースは250ミリリットル缶24本換算)の約4割に当たる31万ケースをすでに出荷しており、好調な滑り出しを切った。

そんな中、コカ・コーラは9月、海外20カ国以上で販売する「トポチコ ハードセルツァー」(355ミリリットル缶、税別150円)で日本市場に参入。まずは関西地区で展開を始めた。

■炭酸水感覚の飲み心地

3社がターゲットに据えるのは、世界市場と同じく20~30代を中心とする若者だ。だが、日本では若者のアルコール離れがいわれて久しい。低アルコールとはいえ酒に違いないハードセルツァーは根付くのだろうか。

まず「ビール離れ」の切り崩しを狙うのは、コカ・コーラとサッポロだ。日本コカ・コーラでマーケティング本部アルコールカテゴリーシニアブランドマネジャーを務めるパトリック・サブストローム氏は「ビールが苦くて重いと思う若者は多く、すっきりとした果実フレーバーのハードセルツァーに移る層は多い」とみる。

「若者の酒離れには理由があり、ニーズに応えられていない部分がある」と話すのはサッポロの広報担当者だ。アルコール離れの背景には「ビール離れ」だけでなく、甘い缶チューハイを好まないことがあるとする。約2年前から若者の生活スタイルに合った商品開発を進める中で「食後の趣味などの時間を邪魔しない、適度にアルコールの入った炭酸水感覚の飲料に行き着いた」という。

ただ、ハードセルツァーは「米国版缶チューハイ」と呼ばれることもあり、日本で既に確立する缶チューハイ市場との競合は避けられそうにない。缶チューハイには、フレーバーはもとより、低アルコールや低糖質といった健康志向に応えた商品もそろう。

オリオンビールの担当者は「チューハイと同様にとらえられ、競合する部分は少なからずある」と懸念。「爽快さと軽い飲み心地といったハードセルツァーならではの特徴があり、飲めばチューハイとの違いを感じてもらえるはず」と訴える。

■「映え」意識のデザイン缶

3社の中で最も商品の見た目にこだわるのはコカ・コーラだ。海外でデザインが受けている長いスリムな缶を日本でも踏襲し、「おしゃれに健康を追求できることが大事」とサブストローム氏。SNSなどで自らの生活や価値観を発信することが日常の若者には、手に持った商品のデザインも消費行動を左右する大きな動機になるとみる。

酒文化研究所(東京)の狩野卓也社長は「健康志向だけで若者に受け入れられるのは難しい。飲むこと自体がファッションとしてかっこよく、コミュニケーションのきっかけになることが重要」と指摘する。

一方で、「缶の形の違いなどは、商品棚の高さに合わず同容量の缶と並べて置きづらいといった流通上のリスクがある」(業界関係者)との声もある。サッポロは「従来からある売れ筋商品の横に置いてもらい、目に留まりやすくするために一般的な缶と同じ形にした」としており、どちらの戦略が奏功するかは評価までまだ時間が必要だ。

新ジャンルのアルコール飲料として脚光を集め始めたハードセルツァー。他の国内メーカーの動向はどうか。狩野氏は「シンプルな製法で大掛かりな装置がいらないため、大手よりは中小事業者の追随が増えるのではないか」とみる。

ただ、海外市場では米ビームサントリーが7月、「トゥルーリー ハードセルツァー」を持つボストンビールと業務提携し、米国の量販店で新商品を販売するなど取り組みを強化。サッポロは傘下のカナダのビールメーカーを通じ、人気のハードセルツァー「ソーシャルライト」を手がける同国のアウェアビバレッジズを5月に買収している。

メーカーのもくろみ通り日本でも若者に浸透すれば、大手からもさらなる商品展開がありそうだ。(田村慶子)

最終更新日:11/3(水)21:08 産経新聞

引用:https://news.yahoo.co.jp/pickup/6408801

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