「なにわ」ナンバー誕生の謎

大阪市が廃止されれば、「なにわ」の自動車ナンバープレートも消える? 大阪都構想が11月1日の住民投票で否決される前、大阪市民からこんな質問が市に寄せられた。疑問はさらなる疑問を呼ぶ。130年以上の歴史を誇る大阪市で登録したナンバーの名称は、なぜ「大阪」ではなく「なにわ」なのか。市民の愛郷心(?)に端を発する“謎”の裏には、歴史の綾(あや)と関係者の苦悩があった。(吉国在)



■原則は「支局」所在地

 住民投票の告示前、都構想の制度設計を担った大阪府市の共同部署「副首都推進局」が市民に質問を募集したところ、700件を超える質問が大阪市に寄せられた。その中にこんな質問があった。

 《車のナンバーは「なにわ」がなくなり、(特別)区(の名前)になるのか》

 現在、大阪市で登録した車は「なにわ」ナンバーになるが、大阪市を廃止し4特別区に再編する都構想が実現すれば、ナンバーが各特別区の名称に変更されるのかと思ったのだろう。

 副首都推進局は市のホームページで「特別区の設置により運輸支局などの管轄区域が変更されない限り、変わらない」と回答した。自動車愛好家にとっては周知の事実だろうが、そもそもナンバープレートは何のためにあり、何を表しているのか。

 道路運送車両法で、ドライバーは「使用の本拠地」を管轄する国土交通省の運輸支局などにナンバーを登録することが義務付けられている。違反車両の特定のほか、事故や事件が起きた際の迅速な対応に必要とされる。

 ナンバーは原則、運輸支局などが所在する都道府県や市・郡の名称が使われるが、紛らわしい場合は「三河」のように「旧国名」となるケースもある。

■「ご当地」46種が追加

 大阪府内のナンバーは「なにわ」以外に3種類あり、府東部と北部の19市町で登録すれば「大阪」、府南部の22市町村では「和泉」となる。前者は近畿運輸局大阪運輸支局(寝屋川市)、後者は同運輸支局の和泉自動車検査登録事務所(和泉市)と、それぞれ管轄する運輸支局と自動車検査事務所の名称に由来する。もう一つの「堺」ナンバーは、堺市のみが対象の「ご当地ナンバー」だ。

 ご当地ナンバーとは、国交省が平成18年、地域振興のため自治体に対して新たな地名表示を認めた制度。これまでに3回の申請を受け付け、計46種が加わった。静岡、山梨両県の一部地域で交付されている「富士山」ナンバーは、複数の運輸支局をまたいだ初のケース。「知床」「平泉」といった世界遺産にちなんだものもあり、既成を含むナンバーの総数は今年5月時点で133種に上る。

 国交省の担当者は「ナンバープレートにこだわるドライバーは多く、地元への愛着につながればいい。ご当地ナンバーが地域の振興に役立つことを期待している」と話す。

■候補に「摂津」「南港」

 さて、本題に戻ろう。大阪府内のナンバーの歴史をひもとくと、興味深い事実に突き当たった。今でこそ大阪運輸支局の所在地は寝屋川市だが、前身の大阪府陸運事務所は昭和24年、大阪市西区に置かれた。当時のナンバー表記は「大」の1文字で、39年に「大阪」に変更されたという。

 近畿運輸局によると、府陸運事務所は40年12月に寝屋川市へ移転した後も「大阪」ナンバーを交付。だが58年11月、大阪市内のマイカー急増に対応するため、府陸運事務所の支所を大阪市住之江区南港東に開設することが決まり、ナンバーの名称をどうするかという問題が浮上した。

 「大阪」はすでに使われていて「不可」。そこで近畿運輸局で候補に挙がったのが、大阪市エリアの旧国名を意味する「摂津」だった。しかし、これは「府内に摂津市があり、ふさわしくない」と却下された。

 支所の住所から「住之江」「南港」なども検討したが、いずれも「大阪市全体を表す地名ではない」として不採用に。最終的に古代から大阪市域を指す地名として親しまれている「なにわ」に決まったという。その後、事務所名も「なにわ支所」となり、現在は大阪市域を管轄する「なにわ自動車検査登録事務所」に看板替えした。

 実は、「なにわ」は「三河」「尾張小牧」と同様にご当地ナンバー創設前に誕生し、運輸支局などの所在地の都道府県や市・郡の名前とも異なる“レアナンバー”なのだ。

 今となっては、「大阪」ナンバーを交付していた府陸運事務所の寝屋川市移転は、歴史のいたずらとでもいうべきだろうか。

最終更新日:11/21(土)12:01 産経新聞

引用:https://news.yahoo.co.jp/pickup/6377164

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