海外に干ししいたけ 5代目活路

神話の里として知られる宮崎県高千穂町は、山あいの寒暖差や自生するクヌギの原木を生かしたしいたけ栽培が盛んな地域。杉本商店は、この営みが続くようにと、600戸を超える生産者から干ししいたけを全て現金で買いとっています。5代目社長の杉本和英さん(47)は、アパレル営業でつちかった経験をいかし、欧米向けの輸出を拡大させました。

――2011年に、Uターンして家業に戻りました。きっかけは何ですか。

 東日本大震災が転機になりました。震災直後に商品が全く売れなくなり、時代の変化を感じたのです。既に家業を継いでいた兄のもとで、新入社員として、しいたけの選別や袋詰めを担当しました。

――会社の印象はいかがでしたか。

 驚きました。私が子どもの頃から、何も変わっていなかったのです。生産者が持ち込んだ干ししいたけを、現金で買い取って、選別して、袋詰めして、全国の生協やスーパーに販売するという業態が、ずっと続いていました。事業規模は微増していたものの、何も変わっていないことに不安を感じました。

 干ししいたけのマーケットは、右肩上がりではなくダウントレンドです。昔からある商品なので、同業他社も多いです。業態を変えなければ、いずれ先細りすると感じました。でも6年ほど経ったとき、「うちにしかできないことを、変えずにやり続けることが強みなのでは」と思い始めました。

――自然環境保護に熱心な、欧州の市場と相性がよさそうですね。

 さらに、大きな気づきがありました。当初私たちは、試食品をおいしくするために鶏肉でだしをとっていたのですが、それを伝えると「私はベジタリアンなの」「私はヴィーガンだからこれは食べられない」と言う人がいました。でも、ベジタリアンやヴィーガンの人たちの方が、私たちの原木栽培のストーリーに強く共感してくれました。

 理由は、ベジタリアンやヴィーガンの人たちが食べられる食材のなかで、これほどのうまみと食感を持つものは他にないからです。生まれつきベジタリアンだったりヴィーガンだったりする人はほぼおらず、皆、肉の味を知っていて、「物足りない」という気持ちも抱えています。そして比較的、所得や教養が豊かな人たちが多いです。つまり、私たちの商品が多少高くても、納得すれば買ってもらえるのです。

――まさに、現場に立ってわかったことですね。

 必死でした。前職の、車に商品を詰め込んで、タウンページを見て行ってこいと言われた時と同じです。どこに答えがあるかわからないけれど、ドイツまで来て手ぶらでは帰れないぞという思いでした。幸い、ベジタリアンやヴィーガンの人たちが、私たちの干ししいたけを高く評価してくれることがわかったので、そこに向けてどう輸出するかに注力することになりました。

――商談はどうやっていますか。

 もともとは海外に足を運んだり、海外から高千穂に来てもらったりしていたのですが、昨年からコロナ禍で商談がオンラインになりました。ただ、実際に高千穂で見ないとわからないものを伝えない限りは商談が進まないと感じ、紹介動画を製作しました。宮崎の仲間たちと、現場をまる2日間撮影して、3分弱に凝縮した動画です。英語が得意な兄に、英語の字幕もつけてもらいました。

――反応はいかがでしたか。

 目に見えて成果が上がりました。私たちの商談はシンプルです。オンライン商談の前にサンプル品を送り、商談では最初に動画を見てもらって、「何か質問はありますか」と聞く。それだけです。聞かれたことには全て答えますが、こちらから商品や価格の説明をすることはありません。商談が最も早く成立したイタリアのバイヤーからは、翌日に送金がありました。

 コロナ禍による巣ごもり需要で、輸出の売り上げも伸びていきました。2019年に670万円だった売上高は、2020年は1200万円と2倍近くになりました。今年は8月末時点で既に3800万円と、前年を大きく上回っています。輸出先の国・地域は10以上になり、欧米を中心に台湾やオーストラリアにも広がりました。大手通販サイトのアマゾンのほか、現地の小売店や飲食店でも扱われています。


 ※後編では、障がい者支援施設との連携や、産官学を巻き込んだアシストスーツの実証実験など、しいたけ生産を守るためのさらなる取り組みに迫ります。

最終更新日:10/7(木)12:05 ツギノジダイ

引用:https://news.yahoo.co.jp/pickup/6406316

その他の新着トピック