「から揚げの天才」なぜヒット

「奥さん、揚げたてから揚げ、1個99円ですよ」。TVプロデューサー、タレントのテリー伊藤の特大フィギュアが、店先で呼びかける。街で多く見かけるようになった、から揚げ専門店の中でも、特にここ1年店舗数を増やしている「から揚げの天才」。「和民」など数々の飲食店を手がけてきたワタミの運営するフランチャイズチェーンだ。ワタミ執行役員でから揚げの天才 営業本部長の分部 雅氏に取材し、華やかなプロモーションの裏に隠れた、ヒットのストーリーを紐解いていく。

●「1個60gで99円」にすべてが凝縮


 「居酒屋の店内をみれば、どのテーブルにも1皿はから揚げがある」と分部氏。居酒屋「和民」でも、人気トップにはならないものの、から揚げは常に3~5位に位置する定番メニューだった。

 居酒屋にとって、から揚げの出来は売上を左右する要素になる。だからこそ、衣やタレの味、製法、素材や盛り付けなど、細かく調整しながら提供してきた。同社には、35年にわたるから揚げ研究の蓄積がある。


 ノウハウは「から揚げの天才」の「1個60gで99円」という商品設計に結実した。味や製法の試行錯誤は当初から現在も続いているが、「大きさ、価格、個数売りの原則は絶対に変えなかった」と分部氏は強調する。

 「から揚げの天才」の商品名は「デカから」。その名のとおり60gのから揚げは、他店と比べても1個あたりがかなり大きい。「オープン当初、他店では1個あたり30~40gが普通だった(分部氏)」。


 根底にあるのは、「家庭の食卓を豊かにしたい」というブランドのビジョンだ。このサイズのから揚げが食卓に並べば、見た目だけでかなりのインパクトがある。食べざかりの子どもがいる家庭なら、なおさら盛り上がるに違いない。

 グラムあたりの価格(100g165円)は、他の大手から揚げ店と比べて2~3割は安い。お買い得感でも、「家族の食卓」のビジョンを表現している。

 大きくて安ければ売れるのは、ある意味当たり前。しかし、デカからの商品設計はもう少し奥が深い。

 サイズはおいしさの裏付けでもある。肉が大きいとジューシーに仕上がるのだ。衣をつける表面に対して中の肉の体積が大きいので、多くの肉汁がしっかり閉じ込められるというわけだ。ただし、大きすぎると味が付きづらかったり、食べ飽きてしまうなどのデメリットも。1個60gは経験から導き出された、バランスのよいサイズなのだ。


 また、他店では「100g240円」などグラム売りが多いが、同社ははじめから個数売りにこだわった。鶏肉をちょうどの重さに切ることは難しいので、ロスなく売れるグラム売りのメリットは大きい。個数売りでは、うたっている以上の重さで切らなくてはならず、どうしてもロスが出る。

 しかし、100gあたりの金額を言われても、それでから揚げがいくつ買えるのか、よくわからない消費者もいる。都度重さを量って会計する、というちょっとしたストレスが、グラム売りでは避けられない。

 「から揚げの天才」は自社のロスが出ても、消費者にわかりやすく、ストレスのない個数売りの道を選んだ。顧客の気持ちを見極める配慮にも、長年のノウハウが生かされている。

●参加しやすいフランチャイズモデルも続々開発

 強い集客力をベースに、「から揚げの天才」は順調に店舗数を増やしてきた。フランチャイジーのなかには、店頭の行列をみて問い合わせてきたオーナーも少なくない。

 そして2020年9月、「999万円出店モデル」をリリースした。駐車場3台分のスペースがあれば開店できるコンテナ型で、郊外のロードサイドや大型店舗の駐車場など、安く利用できる土地での出店を想定。「2年で投資回収が可能」なモデルとして、フランチャイズ加盟店を募集している。


 さらに2021年7月には、驚きの「380万円出店モデル」を発表。初期投資を極限まで抑えることで、コロナ禍で苦しむ中小企業や、脱サラ、定年後のセカンドライフの支援に取り組む。戦略的には、一気に店舗を増やして地域にブランドを浸透させ、他店に対する競争優位を築く狙いだ。


 ただし、店舗が増えすぎると自社競合が起こりかねない。同社は「から揚げの天才」フランチャイズ加盟の上限を、全国で1000店舗としている。

●水面下のから揚げバトル


 「から揚げの天才」のフランチャイズモデルをヒットさせたワタミが、現在危惧しているのは業界全体の劣化だ。

 少ない初期投資で、ノウハウがなくても参入できるメリットは前述の通り。そのためにクオリティの低い店が増えすぎると、から揚げ店自体の不信を招きかねない。現に「から揚げ業界はレッドオーシャン」(分部氏)だ。


 そんな不安を現実にしないためにも、水面下の切磋琢磨は激しい。「から揚げの天才」は今の所、売上とともに顧客からのフィードバックも好調だが、今も数カ月単位で衣やタレ、製法などのマイナーチェンジを繰り返している。

「自分たちが一番がおいしい、と思っていても、翌月には他社に追い抜かれてしまう。現状にあぐらをかいていては乗り遅れる。他社も同じ気持ちのはず」(分部氏)

 まだまだ続くから揚げバトルが、私たちの食卓を豊かにしてくれることを期待したい。

最終更新日:10/5(火)11:50 ビジネス+IT

引用:https://news.yahoo.co.jp/pickup/6406167

その他の新着トピック