制限緩和 観光業界の期待と懸念

政府が目指す秋以降の新型コロナウイルス対策の行動制限緩和方針に、外出自粛要請などで厳しい状況が続いてきた旅行業界が期待を寄せている。ワクチン接種の進展が背景にあり、接種済みの人を対象にしたツアー販売など政府方針に先んじた動きもある。一方で「緩み」からの感染再拡大を懸念する声も強く、感染防止対策との両立が課題となる。



 「お客様からの問い合わせは多く、反応は好調です」。旅行大手の阪急交通社(大阪市)は政府の緩和方針を受け、15日からワクチン接種者向けの専用ツアー申し込みページを開設した。2回接種者か検査で陰性を確認できた人を対象とし、10月後半以降出発の100コース以上を用意している。紅葉の時期に京都、奈良に向かうツアーの人気が特に高いという。同社の広報担当者は「接種を終えたお客様に、感染対策をより徹底しながらツアーを楽しんでもらえれば」と話す。

 クラブツーリズム(東京都新宿区)は主要顧客層となる高齢者のワクチン接種が進んだことから、政府の方針発表前の8月下旬から2回接種者を対象としたツアー(出発は10月末以降)の販売を開始し、緊急事態宣言対象地域発着についても今月中旬に一部再開した。「未接種者への差別とならないように」(同社広報)と、価格は通常と同じで、未接種者も別日程などで申し込めるコースを用意している。

 バスツアー大手のはとバス(東京都大田区)は9月13日からの緊急事態宣言延長に伴い、県境をまたぐ関東近郊へのツアーを中止し、約170件の予約がキャンセルとなった。現在は東京駅から大規模接種センターへのシャトルバスとして黄色い車体を走らせている。9月末での緊急事態宣言解除を見据えてツアー再開を計画しており、秋以降の制限緩和方針に担当者は「世間的に旅行マインドが高まってくると思うので期待している。政府の方針に従って検討していきたい」と語る。

 打撃を受けてきた観光地の受け止め方はどうか。神奈川・箱根町観光協会の佐藤守専務理事は「観光地は疲弊しきっており、ワクチン接種が進む前提での制限緩和は歓迎すべきこと」と話した。その上で「感染が再拡大したら元も子もない。華々しいキャンペーンでお客さんを呼び込むというよりも、地味だがこれまで通り感染対策を徹底しながらやっていく」と気を引き締める。

 また、群馬・草津温泉観光協会の白鳥新さんは「観光業はお客様がいないと食べていけないのでありがたいが、新型コロナは簡単にはなくならず、医療逼迫(ひっぱく)も現実問題で難しい。我々は安全に来ていただけるよう準備するしかない」と苦しい胸の内を吐露した。

 感染拡大防止と経済活動の両立を期待する声がある一方で、制限緩和による「緩み」が感染再拡大を招かないかという懸念も強い。

 緩和方針をまとめた今月9日の政府対策本部に先立って開かれた基本的対処方針分科会では、医療や感染症の専門家から「すぐにリバウンド(再拡大)しかねない」と異論が多く出た。全国知事会も新型コロナ対策を巡る国への緊急提言で、制限緩和方針について「緩和のみが目立って国民を楽観させることになれば感染再拡大防止の観点から不適切で、内容、時期など精査が必要」とし、接種を受けない、受けられない人の人権に配慮した運用も要請している。

 国内でもワクチン2回接種後の「ブレークスルー感染」が報告されており、海外では行動制限緩和後に感染者が急増している例もある。感染症が専門の二木芳人・昭和大客員教授は「ワクチンは感染リスクを下げるが100%防げるわけではない」と指摘。「出口戦略として、ある程度緩和が必要な場面は出てくるにせよ、ワクチン接種済みだからと気を緩めることなく、事業者、利用者の双方がこれまで以上に感染防止対策を徹底することがカギとなる」と話している。【大島祥平】

最終更新日:9/25(土)22:32 毎日新聞

引用:https://news.yahoo.co.jp/pickup/6405352

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