小田急電鉄が和泉多摩川―東北沢間10.4kmの複々線化事業を2019年3月に完了してから、2021年9月で2年半が経過した。
複々線化により列車の増発が可能になったことで混雑緩和や速達性の向上など鉄道利用者にとっては大きなプラス効果があったが、複々線化の副次的な効果も沿線にじわりと広がりつつある。世田谷代田―東北沢間約1.6kmを地下化したことで、地上の線路跡地が開発可能となったことである。
そこに何を造るか。鉄道会社の不動産開発というと大型オフィスビル、商業施設、マンションなど収益性の高い物件の建設を想像しがちだが、小田急の考えは違った。収益の最大化を図るために「街を変える」のではなく、すでにある街の姿を最大限に尊重し、その発展につながるような開発計画を策定した。小田急はこれを「支援型開発」と呼ぶ。
客室は時間貸しも可能だ。料金は30分500円からで、「会議だけでなく、お昼寝、英会話レッスンなど気軽に使ってほしい」と、同ホテルの担当者が話す。下北沢に多く居住しているファミリー層の利用も想定している。
一方で、長期滞在者向けには、レンタサイクルの無料利用、近隣の銭湯回数券の提供といったサービスも行う。
マスタードホテルの隣に、一足早い今年6月にオープンした商業施設「reload(リロード)もユニークな存在だ。やはり2階建てだが、大きな建物をドンと構えてその中にテナントが入居するのではなく、敷地内には大小さまざまな建物が連なっている。1階と2階を結ぶ階段は不規則に配置され、壁は真っ白。エーゲ海の島の街並みをどこか思わせる。中へ1歩足を踏み入れると、迷路に迷い込んだようだ。
首都圏の多くの沿線には、駅前に企業名を冠した百貨店やスーパーがある。近年における駅前再開発の成功例といえる「二子玉川ライズ」は東急田園都市線・大井町線の二子玉川駅前を再開発したものだが、東急ストア、エクセルホテル東急、さらに東急系シネコンの109シネマズといった東急グループの店舗、施設が多く連なる。
しかし、今回の下北沢の再開発ではそうした企業カラーが皆無だ。強いて言えば、温泉旅館の由縁は新宿でも開業している既存のブランドだが、由縁が小田急グループに属しているとはほとんどの人は気づかないだろう。
最終更新日:9/21(火)14:54 東洋経済オンライン