東京で無人果物店 盗難ゼロ

「いらっしゃいませ」――。

 店内に足を踏み入れると、スタッフからこのように声をかけられる。当たり前すぎるので、いちいち気にしていない人も多いかと思うが、店の中に入っても「しーん」としているところがじわじわ増えてきた。「無人店舗」である。



 店内で商品を手にして、そのまま店を出ても決済ができている。カードもスマホも財布も出す必要がない近未来型の店舗もあれば、24時間営業のギョーザ店や古着を扱う店などがある。いずれも店舗という箱を構えていて、その中にスタッフがいない形で運営しているが、個人的に注目しているのは箱がないタイプである。

 「はい、はい。地方に行けば、道路の脇などで販売しているやつでしょ。キャベツやスイカなどが置かれていて、それを買いたい人は賽銭箱のようなところにお金を入れるアレね」と思われたかもしれないが、半分合っていて、半分違う。

 筆者が気になっている無人販売所の名前は「F STAND(エフスタンド)」。日用品などを企画・販売しているアンサングス アンド ウェブ(東京都豊島区)が展開していて、特徴は3つある。1つめは、飲食店の軒先などで可動式のハンガーラックを置いて、収穫から48時間以内の果物を扱っていること。2つめは、地方で販売しているのではなく、渋谷や目黒といった都内の5カ所で販売していること。3つめは、現金を扱っていなくて、支払いはPayPayかSquareによるクレジットカード決済のみとしていること。

 それにしても、なぜ無人販売所を始めようと思ったのだろうか。しかも、果物だけである。エフスタンドを運営している代表の有井誠さんに聞いたところ、キーワードとして「山梨県」が浮かんできたのだ。

2020年7月と9月に、都内の5カ所で試験的に販売したところ、予想以上に売れた。しかし、販売するのは不定期である。「いつ販売しているのかよく分からない商品って、売れるのかなあ」と思っていたところ、SNSをうまく活用していたのだ。

 例えば、販売日の朝に「畑からの産地中継」を行っている。畑の様子だけでなく、おいしい果物の見分け方など、情報をどんどん伝えていく。こうした取り組みをしたことで、どういった効果が生まれたのか。無人販売所といえば、その前をフラッと歩いた人が「むむっ、おいしそうな桃があるじゃないか。2つ買っていくか」といった感じで、通りすがり需要が多いのかなと思っていたが、違う。SNSを通じて、その価値を認めた人がわざわざ足を運ぶケースが増えているのだ。

 昨年の試験的な取り組みが成功したことを受けて、今年は4月から展開している。いちご、さくらんぼ、桃などを販売し、9月からはぶどうである。改造したハンガーラックには、基本的に2日分の商品を並べているが、人気のある果物は3時間ほどで消えてしまう。では、売れ残ったモノはどうしているのだろうか。「収穫から48時間以内のモノしか売らない」となると、その日の天候などによっては売れ残ることもあるはずだ。

 「無人スタンドを設置しているのは、カフェなどの軒先が多いんですよね。余った商品は、その店の冷蔵庫に入れて、ケーキなどの材料として使っていただく。全部買い取っていただくのではなく、使ったぶんだけ精算する形ですね」(有井さん)。廃棄をできるだけ少なくする試みは、いま風でとてもよいではないか。

最終更新日:9/12(日)18:35 ITmedia ビジネスオンライン

引用:https://news.yahoo.co.jp/pickup/6404266

その他の新着トピック