丸ごと日本 海外で都市開発好調

【経済インサイド】

街づくりでも人気の「ジャパンクオリティー」。インフラ輸出の一環として、日本企業が海外で住宅や商業施設から公共交通まで、都市開発をパッケージで進める事業が好調だ。2019年の同分野の海外受注額は、20年の目標額だった2兆円を4年連続で超える見通し。国も来年度予算の概算要求で支援強化を盛り込んだ。質が高く管理が行き届いた日本型不動産への高評価に加え、東南アジアなどで深刻化する都市部の人口増加や交通渋滞をめぐり、過去に同じ課題を乗り越えてきた日本の開発手法に注目が集まっている。



オフィスや商業施設が並ぶ「Hikari(光) エリア」、富裕層や中間層向けの住宅が並ぶ緑豊かな「MIDORI(緑) PARK」-。ベトナム最大の経済都市ホーチミンから北へ約30キロの「ビンズン新都市」には、日本語を使ったエリア名が点在する。

7月には東京近郊で見るようなタワーマンションが並ぶ「SORA(空) gardens エリア」で新たに竣工(しゅんこう)した高層マンションの入居が始まった。開発を手がけている現地デベロッパーを傘下に持つ東急(東京)によると、6月末時点で既に全557戸の約9割が契約済みという。

新都市の近隣に外国企業の工場が集積しており、それに伴い人口が急増中だ。バイク移動が主流のベトナムでは渋滞や環境負担の軽減も求められ、かつて人口が増え続ける東京の郊外で、公共交通を軸にした沿線開発を進めてきた東急などに白羽の矢が立った。

2012年から開発を担う3つのエリアの広さは、新都市全体(約1000ヘクタール)の約1割。日本からは高層マンション事業で三菱地所レジデンスやNTT都市開発、商業施設ではイオンなども参画。ベトナムでの日本ブランドへの信頼は健在で、エリアに日本名を付けようと提案したのも現地スタッフという。

一つの建物から全体の街づくりまで、日本ならではの高品質や細やかな気遣いが随所に見られ、6路線11系統で運行されている排出ガス抑制の路線バスはその代表例だ。徹底した定時運行や乗務員の丁寧な対応などは、徐々に通勤通学など生活の足をバイクからバスに移行させている。今後は新都市からホーチミンを結ぶ路線も整備予定という。

また、東急線沿線をホームとするJリーグの強豪、川崎フロンターレのサッカースクール開設などソフト面の充実も図っており、現地で長く都市開発を担当していた東急国際戦略室の稲津秀俊さん(38)は「1棟建てて帰るような投資色が濃い開発ではなく、日本でやっているような長期的な視野に立った面的な街づくりこそ、その地域のためになる」と指摘する。

少子高齢化に伴う人口減少が進む国内では、都市開発など各分野で市場の縮小が見込まれる。政府は成長著しい新興国に活路を見いだすべく、分野別の支援方針を盛り込んだ「インフラシステム輸出戦略」を13年に策定、毎年改定してきた。

国土交通省も企業に対して、収益化の可能性調査を予算面で支援したり、海外交通・都市開発事業支援機構(JOIN)を通じた出資をしたりしている。22(令和4)年度予算の概算要求では可能性調査の支援項目を増やし、新たに資金調達に関する情報も委託企業を通じて収集する。

内閣官房などによると、都市開発を含む基盤整備分野の海外での日本企業の受注額は、20年の目標額だった2兆円を16年に超え、17年の2・9兆円、18年の2・8兆円と高水準で推移。19年も超える見込みだ。

背景には、計画的ではない急速な都市化のため、住宅不足や渋滞、大気汚染などに悩む東南アジアに対して、同様の課題に対処した高度経済成長期など過去の街づくり経験を生かせるという強みがある。

中核となるのが、自動車やバイクに依存せず、公共交通に基礎を置いた郊外型の都市づくりで、別のホーチミン郊外の都市やインドネシアのジャカルタ郊外などでも進展。東南アジア以外ではオーストラリアでも都市開発が進んでいる。

開発面積が大きい案件も増えてきており、JOINの佐谷説子企画業務グループ長は「広い方がインフラや環境面での政策的な効果が出やすく、日本の良さ、持ち味を出せる」と話す。

ただ、最近はシンガポールや韓国との競合が激しくなっている上、東南アジアでもニーズの内容がSDGs(持続可能な開発目標)の考え方によりシフトするなど情勢が変化。それに合わせて政府も昨年12月に戦略を見直した。

国交省幹部は「今後は質が良ければいいというだけでは通じなくなる。デジタル分野や海外の契約文化に対する理解度などは日本は先進的とは言えない。外国企業から足りない部分を吸収したり、協力して一緒に開発したりする必要も出てくる」と話している。(経済部 福田涼太郎)

最終更新日:9/5(日)9:11 産経新聞

引用:https://news.yahoo.co.jp/pickup/6403626

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