菅首相退陣 経済界に走った衝撃

菅義偉首相の突然の辞任表明で、経済界や霞が関は驚きの渦に包まれた。新型コロナウイルス感染拡大の難局の中、わずか1年で幕を閉じることになった短命政権。市場では政局安定への期待感が広がった一方、官僚からは残された政策課題の先行きを危ぶむ声もあがった。



 首相退陣の一報が伝わった3日正午前、取引中だった大阪取引所では日経平均株価の先物価格が数分間で約200円も上昇した。東京株式市場も午後の取引開始から株価が急上昇。「八方塞がりのコロナ対策が改善する」(大手銀行幹部)。そんな期待感を背に株は買われ、日経平均株価の前日終値からの上げ幅は一時600円を突破。約2カ月ぶりに2万9000円台を回復した。

 三井住友DSアセットマネジメントの市川雅浩チーフマーケットストラテジストは「支持率の低い菅首相のままでは衆院選で苦戦するとの見方があった。新しい総裁で衆院選を迎えた方が政策の一貫性が保たれるという期待が高まった」と指摘。「支持率が下がっていた首相の交代で市場の悪材料が解消された」(大手証券幹部)と退陣を好感する声が広がった。

 財界にも衝撃が走った。時の政権を支え、「財界与党」ともいわれる経団連の十倉雅和会長は同日午後、記者団に「非常に驚いた。その一言に尽きる」と述べた。「コロナ対策に不眠不休で当たられてきた。ワクチン接種のスピードは総理の強いリーダーシップがなかったら実現しなかった」とも述べ、その実績を前向きに評価した。別の財界団体の幹部も「もともと首相になる覚悟があった政治家ではない。それにしてはこのコロナ危機の中でよく仕事をしたと言える」と労をねぎらった。

 首相の経済ブレーンで知られるサントリーホールディングスの新浪剛史社長もコメントを発表。「カーボンニュートラルへの取り組み、デジタル化の推進、より良い子育て環境の整備は日本の将来に不可欠で、しっかり引き継ぐことが重要だ」と菅路線の継続を訴えた。

 昨秋の政権発足以降、脱炭素社会の実現に向けた施策を次々と打ち出してきた菅首相。2035年までに新車販売を電動車のみとする「脱ガソリン」方針は自動車業界を驚かせたが、ある大手メーカーの幹部は「世界の潮流の中で目標値は出したが、エネルギー政策などの具体策は薄かった。極端な脱ガソリン戦略をとりそうな政治家が次の首相にならないか心配だ」とこぼした。

 ◇発足直後のデジタル庁からは落胆の声

 官房長官時代を含め、官邸の意向をそんたくする空気を霞が関に醸成したといわれる菅首相。菅カラーの実現に奔走してきた官僚からは落胆の声が聞かれた。

 「我々のトップがいなくなる。不安に決まっている」。内閣直轄組織で首相をトップに据え、1日に発足したばかりのデジタル庁の幹部はこう漏らした。

 22年度予算編成の影響を懸念する声も広がった。菅首相は「デジタル化」や「脱炭素」など肝煎りの4分野に予算を重点配分するルールを掲げ、8月31日に各省庁からの概算要求を締め切ったばかり。3日の経済財政諮問会議では、グリーンやデジタル分野などへの予算措置の重点化に向け「思い切った規制改革、既存の仕組みをゼロベースで見直す」と訴えた。

 しかし、概算要求に携わった経済官庁の幹部は「概算要求のルールを作った官邸の主が代わったら、予算編成はどうなってしまうのか」と困惑ぎみ。予算編成は財務省の査定を経て年末までに予算案を決定し、年度内の国会成立を目指す流れ。政局の混乱が長引けば、この予算編成スケジュールに遅れが生じる可能性もあり、ある経済産業省幹部は「驚いたが、こういう急な事態にも備え、概算要求ではいろいろな項目を積んで芽を残しておいた」と打ち明けた。

 「役所の世界では考えられない、激しい動きだ。予想できた役人は少ないのではないか」。経済官庁のある官僚は「一寸先は闇」といわれる政界で始まった動きに、不安を隠せない様子だった。【山口敦雄、後藤豪、袴田貴行】

最終更新日:9/4(土)13:53 毎日新聞

引用:https://news.yahoo.co.jp/pickup/6403562

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