亡き父と競わず 2代目の車いす

千葉市の車いすメーカー「オーエックスエンジニアリング」は、日常生活用だけでなく、世界で羽ばたくパラリンピック選手の競技用車いすも製造しています。バイク事故で障害を負った創業者の石井重行さんが立ち上げ、今は2代目で息子の勝之さんが、父の遺志を背負って新規事業にも取り組みながら、東京パラリンピックに臨んでいます。

勝之さんは高校卒業後、情報系の専門学校に進みましたが、1年で中退。重行さんに「この仕事をやってみないか」と声をかけられ、21歳のとき、オーエックスエンジニアリングに入社しました。入社後の1年間、様々な雑務をこなし、2年目からは2年半、車いすの加工技術を学び、新潟県の製造工場でも経験を積みました。

 09年、大型ショッピングモールで営業していた直営店を独立させ、車いすの販売会社の社長となったことが転機になりました。勝之さんは、3~4人の従業員をまとめながら接客、販売にあたります。勝之さんはこのとき初めて、顧客の声を直接耳にしました。お叱りもある一方で、自社の車いすへの期待も聞いて、励みになったといいます。

 一方、創業者の息子ということで、社内からは父親の方針に厳しい声をかけられることもありました。ただ、このときも、勝之さんは自分自身が後を継ぐと考えたことはありませんでした。

オーエックスエンジニアリングの製品開発は、トップアスリート向けにとどまりません。勝之さんが継いだ後の14年には、子ども向けの競技用車いすも発売しました。開発のきっかけは、現場にありました。札幌市と仙台市で開催されたテニス大会の一部で製品を展示。近所の人に気軽に各種車いすを楽しんでもらえるイベントを行いました。

 最初は大人向けの製品を並べていましたが、子どもを連れて参加してくれる人も多くいました。勝之さんは、子どもが大人向けの車いすに乗って、テニスを体験してくれる姿を目の当たりにして、障害のある子どもにも、車いすスポーツを楽しんでもらいたいと考え、子ども向けの競技用車いすの開発に乗り出しました。現在、競技用の台数の約1割が子ども向けといいます。

勝之さんは東京大会以降を見据え、海外事業にも力を入れたいと考えています。現在、中国、韓国、タイ、台湾に販売店があり、販売店のないヨーロッパなどからも採寸のためにわざわざ来日し、体にフィットした車いすを購入している顧客もいるといいます。

 ただ、サイズのあった車いすを作るための採寸に、1人あたり2時間ほどかかってしまうことが課題です。採寸の際はどうしても体を支えながら各部分のサイズを測らなければなりません。新型コロナウイルスの流行で、対面での打ち合わせや接触を不安に感じるケースもあるといいます。そこで、採寸方法を標準化し、ウェブ会議システムなどの活用でスムーズに作業できる体制を構築中です。実現すれば、競技用車いすの採寸を得意としない販売店でも作業できるようになります。

最終更新日:8/30(月)19:00 ツギノジダイ

引用:https://news.yahoo.co.jp/pickup/6403126

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