旅館再生 大江戸温泉物語の戦略

終わりの見えないコロナ禍で経営難に陥る施設が相次ぐ宿泊業界──。特にこれまで団体客に頼ってきた地方の大型観光ホテルや老舗温泉旅館の集客減は深刻だ。そんな施設の運営を引き継ぎ、再活性化事業を行っているのが「大江戸温泉物語ホテルズ&リゾーツ」だ。同社はどのような手法で苦境に喘ぐ宿泊施設を蘇らせてきたのか。ホテル評論家の瀧澤信秋氏が取材した。

筆者はテレビ番組の企画がきっかけで5年ほど前から「大江戸温泉物語ホテルズ&リゾーツ(以下「大江戸温泉物語」)」を定点観測的に取材しているが、同ブランドも大型温泉施設を引き受けリブランドするスタイルで成長してきた。

 往時であれば1泊数万円~といった高級施設でも、効率的なオペレーションに切り替えることでコストを削減し、格安とハイコスパを売りに再び集客する手法だ。

 経営面からみると、2015年以降の投資ファンド参画による店舗拡大、売り上げ増加、採算やコスト管理、投資の回収といった特徴的があり、ひとつずつ考察したいところだが、スペースの関係もあるので別の機会に譲るとして、今回は運営面に絞ってその特色とコロナ禍における変化、そして最新事情についてレポートしたいと思う。

 大江戸温泉物語は全国各地の温泉地を中心として現在39施設を運営。北は東北の鳴子温泉から南は熊本県天草に至るまで、温泉地・人気観光地に展開している。前述のとおり、高級温泉観光ホテルとして知られた大型施設のリブランドも多い。

 だが、いくらリブランドしようとも大型施設であることに変わりはなく、再び経営を軌道に乗せるためには相当の集客力が必要だ。そのカギとなっているのが、「温泉施設とダイニングの徹底したリニューアル」(大江戸温泉物語のマーケティング担当者)だという。

 筆者の数年来にわたる取材を振り返っても、それまでの施設運営では仇となったスケール感を活かすエンターテインメントの充実、コンセプト性のある温浴施設の増設など、個人旅行にも合わせて顧客満足度を高める努力を継続していることが、集客に繋がっていると分析している。

 なによりも、客室案内・部屋食というような個別サービスを廃し、必要なサービスのみに特化した営業に転換し、低料金を実現させているのが大きい。大江戸温泉物語では高齢者やファミリー層が主要ターゲットで多くのリピーターに支えられているというが、いまや「大江戸温泉物語=利用しやすい料金」というブランドイメージが定着してきた。

ゲストが大江戸温泉物語を選ぶ大きな理由となっているのが「食事」だ。夕食・朝食ともにスタイリッシュにリニューアル・リファインされたレストランで提供されるが、バイキング形式で提供され、ゲストからの評価は高い。

「大江戸温泉物語といえばバイキング」といわれるほどに、食材やメニューへの飽くなきこだわりは驚きだ。「大江戸温泉物語グループ全体で大量に仕入れていることからハイコスパなメニューが提供できる」と語るのは、同グループ最高料理顧問の高階孝晴氏だ。

 会場が混雑しない導線の工夫や料理の温度管理、ディスプレイ、照明の照度まで日々研究していると話す。同氏は元プリンスホテル調理部長として、ブッフェレストランで年間100万人の集客を達成し続けた男として知られるが、大江戸温泉物語においても日々各地の店舗へ指導に出向く。

 そんな大江戸温泉物語もコロナ禍で大きな打撃を受けてきたことは言うまでもない。エンターテインメント、そしてバイキングスタイルなどは、これまでの営業スタイルの根幹に関わる部分だけに、安心・安全の徹底した感染対策を続けながら、新たな運営手法も模索してきたという。

そんなスタッフにまず案内されたのがロビーラウンジだ。到着時のウェルカムサービスとしてソフトドリンクはよく見るが、こちらでは生ビールまで提供されていた。また、夕食後にアルコールや音楽を楽しめる「VIPラウンジ」もこれまでの大江戸温泉物語の施設とは一線を画すプレミア感をもたらしている(※現在、アルコールの提供は終日休止)。

 岩沼屋の夕食もそれまでの大江戸温泉物語ではありえないスタイルを取っている。前述したように、大江戸温泉物語といえば広大な会場でのバイキング料理で知られるが、岩沼屋ではバイキングにせず地産地消の創作会席料理を提供している。

 確かにコロナ禍において料理の提供手法も変わりつつあるものの、これも大江戸温泉物語というブランドアイデンティティーの変容ともとれる。

 前出の山田氏によると、「ご当地にはバイキングで有名な旅館もあり競合と差別化という点を鑑みて会席へシフトした」と語る。バイキングではないものの、最高料理顧問の高階氏も注力した宿自慢の会席コースに仕上がったと自信を見せる。

 また、夕食時のアルコールがフリーというのも岩沼屋の特徴だ(※夕食時のアルコール提供も終日休止中)。宮城の地酒を含む豊富なラインナップがゲストに好評で、日本酒のセレクトは岩沼屋時代からの地元スタッフの意見なども反映されるという。

 ご当地で伝統を紡いできた老舗旅館運営を引き継ぐ大江戸温泉物語の試行錯誤は、多様化する顧客ニーズに応えながら、今後も続けられていくだろう。

最終更新日:8/29(日)13:27 NEWSポストセブン

引用:https://news.yahoo.co.jp/pickup/6402997

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