新型コロナウイルスで自宅療養している人が全国で9万6709人(8月18日時点)おり、東京都では、8月中に12人の自宅療養者が亡くなった(25日時点)。医療の逼迫により、速やかに入院ができない深刻な状況にある。その影響からか、スポーツや登山で呼吸を整える時に使う「酸素缶」を買い求める人が増えている。
「中等症で入院した場合は、1分間1リットル~5リットルの酸素を連続的に流し、最大で10~15リットル使います。缶から出る酸素は、1プッシュで数秒間だけで、1缶約5リットルという酸素量に限りがあります。持続性や量を考えると、効果は極めて限定的です。医療で用いる酸素と同等の治療効果が得られるとは期待しないほうがいいでしょう」
ただ、症状改善を期待するとまではいかなくとも、応急処置としての「酸素缶」の利用についてはどうだろうか。
「トイレに行った後に息が切れた時に使うと、少し呼吸が落ち着くことはあるかもしれません。ただ、効果は短時間で、あまり頼りにはならないと思います」
医学的にみれば、お守り程度に持っておくのがよさそうだ。
というのは、発症後に血中の酸素濃度が低下して酸素投与が必要な状態になった場合、重症化を予防するための薬物治療を速やかに行うことの方が重要だからだ。つまり、ただ酸素を吸っていればよいというわけではないのだ。
寺嶋教授は指摘する。
「現状、中等症2の患者でも血中酸素が不足している容態でないと入院ができない。それほど病床に余裕がありません。しかし、本来ならば、中等症2で血中酸素濃度が93%以下になったら酸素投与が始まります。そして、医師は次の重症を防ぐためにデキサメタゾンやレムデシビルなどの薬物治療を行います。酸素投与が必要な状態になったら入院しなければならないというのは、同時に薬物治療を行うためなのです」
そう考えると血中酸素濃度は重要な指標のようだが、それを患者が「息苦しさ」から判断するのは危険だという。新型コロナの患者には、「ハッピー・ハイポキシア」(幸せな低酸素症)と呼ばれる、酸素が低下しても息苦しいなどの自覚症状を感じにくい人がいるからだ。
やはり、客観的な数値が有用。ならば、指先に挟んで血中酸素飽和度を測定する「パルスオキシメーター」の利用ポイントをあらかじめ知っておきたい。生産が追い付かないという報道もあるが、東京都など、自治体によっては貸し出しているところがある。
寺嶋教授は、自宅療養者に対して、保健所に数値を申告する際に「安静時」と「動いた直後」の両方の数値を報告してほしいと促す。
「正常な人は安静時も動いた後も96%を保ちます。酸素が低下してきても、安静時は95%ほどですが、トイレに行って戻ってきてから直ぐに計ると92%くらいに低下することがあります。ところが、1~2分座って呼吸を整えると95%に回復してきます。医療従事者は数値が変動する様子を観察しています。自宅療養の患者さんは、心配な人は悪い方の数値、まだ大丈夫と考えたい人は良い方の数値しか申告しないこともあるようなので、変動するものとして安静時の数値も報告してほしいです」(寺嶋教授)
自宅療養者が増えるなかで、必要なことを見極めて備えたい。
(AERA dot.編集部 岩下明日香)
最終更新日:8/27(金)17:30 AERA dot.