日本特有の現象として知られている同調圧力。『同調圧力の正体』(PHP新書)によると令和になりそれがタテ(秩序)ではなくヨコ(正義)から発生しているという。会社内でも同調圧力の空気に悩まされる人も多いと思うが、それにどう対処し、振る舞えばいいのか。著者であり同志社大学政策学部教授の太田肇氏に聞いた。(清談社 沼澤典史)
● 日本で同調圧力が 発生する3つの要因
長引くコロナ禍で、これまで以上に息苦しい日常を感じている人も多いだろう。営業している飲食店は嫌がらせや密告をされ、マスクの有無で電車内ではけんかが起きる。このような周囲と同じ言動を強制することは同調圧力と呼ばれ、日本では学校や会社などあらゆる場所にはびこっている。
同調圧力の発生について、太田氏は3つの要因があると指摘する。
「同調圧力の要因の一つ目は『閉鎖性』です。日本は島国であり他国に比べて移民も少ない。さらに企業では終身雇用、年功序列、企業別組合があり、転職による移動がしづらく、閉鎖性が色濃くなります。学校においても、部活など教科以外の活動が学校単位で行われます。そのため、生活のすべてを学校に依存し、人間関係も固定されていきます。このような閉鎖的な組織や集団が日本のあらゆる場所にあります」
二つ目は「同質性」だ。日本は他国に比べて異民族の割合が低い。そのため、宗教や価値観、文化に大きな違いがなく、同質性が高くなるのだ。
「“同じ日本人”という意識があるので、共有すべき規範のハードルが高まります。海外の電車内で通話している人を見ても何も思いませんが、国内で同様の光景を目にすると気になってしまうのも、同じ日本人という意識があり、規範の期待値が上がってしまうのです」
まさに今夏のオリンピックでは、それが顕在化した。森喜朗元首相、小山田圭吾氏の辞任などがそれにあたるだろう。
「『正義』が間違いなく正しいものであっても、異なる意見を言える余地と尊重できる土壌が必要で、それが社会の健全化につながります。問答無用で排除するだけではなんの前進にもなりません。同調圧力は強まり、社会の息苦しさは増すばかりです」
このような、どんなミスや誤りでも他者を徹底的に糾弾し、追放する事例は世界的に「キャンセルカルチャー」と呼ばれているが、日本の同調圧力との相性はかなり良いのだろう。
● フリーランスの増加で 同調圧力社会は変わるか
SNSの普及に加え、コロナの自粛により日本の同調圧力は高まるばかりだ。個人が対抗するにはどのような手段があるのだろうか。
「閉鎖性と同質性、個人の未分化と逆の行動をとればいいと思います。会社を例にとるならば、閉鎖性を破るように他部署とネットワークを築く。特定のグループや派閥に近づきすぎず、等距離外交を図る。また、共同体主義を排除するために共同体内での『役割と行動の引き離し』を行う。共同体(組織)において重要なのは貢献度や結果であるはずで、『自分のタスクさえこなせば、無駄な残業はしない』とはっきり言うべきです。このように『共同体内での役割を果たす限り行動は制約されない』と公言するのは重要でしょう」
企業人であれば、このような言動は出世レースに悪影響を及ぼしかねないが、その心配はないと太田氏は断言する。
「みんなそうしたいけどできないわけですから、おそらく追随する人が出てきます。また自分のペースで生きている同僚や先輩が出世すれば働きやすくなりますから、支持も受けやすい。逆にそういう部下を評価できない上司は出世できない時代になるでしょう」
かつて、パナソニックの3代目社長にヒラの取締役から大抜てきされた山下俊彦氏は、残業も休日出勤もしないことで有名だった。松下幸之助氏による抜擢であったが、令和の時代にも彼のような先見の明を持つ人物が求められている。
共通の敵であるコロナの発生、鎖国さながらの海外渡航中止など、昨今はさらに内輪の論理が強まり、それに比例して同調圧力が高まっている。このような時代ではどのような変革が求められるのか。
「現状を改善するには仕組みを変え、組織から変革していくほかないと思います。例えば、組織にフリーランスを多く入れたり、中途採用の割合を高めたり異質な人を増やす。個人的にはフリーランスがもっと増えれば、自然に同調圧力が強い組織には人が集まらなくなり、オープンな社会に近づくと考えています。彼らに有利になるような法整備を行って人数を増やせば、社会の流動性が高くなり、同質性、閉鎖性、個人の未分化を組織からなくすことが可能です」
コロナ以降、フリーランスは増加した。所属に縛られない生き方が求められるのだろう。
最終更新日:8/26(木)20:31 ダイヤモンド・オンライン