収束の気配が見えない新型コロナウイルスの感染拡大。長引く外出自粛の要請で深刻な影響を受けているのが、アパレル業界だ。
ある衣料チェーンの幹部は「コロナ禍で消費者が外出しなくなり、衣料品の需要そのものが消滅してしまった」と嘆く。「今年はさすがにコロナ影響が後退するだろうとにらみ、春夏製品を多く仕込んでいたが、完全に空振りに終わった」(同)。現在はその在庫処分に追われる毎日だ。
こうした状況は衣料店だけでなく、そこに商品を仕入れるアパレルメーカーや卸にも波及する。今年5月から7月にかけて、愛知県と岐阜県のアパレル関連企業で連鎖倒産が起きた。
同社は1948年創業のアパレルメーカー。岐阜地域のメーカーでは珍しく、レディースは扱わずメンズカジュアルに特化して商品企画を行ってきた。信用調査会社によると1992年度には売上高90億円を超えていたが、その後減少傾向が続き、直近の売上高は20億円強にとどまっていたという。
ガゼールはしまむらやライトオン、ジーンズメイトなど低価格カジュアルチェーンが主販路で、量販店向けに広くプライベートブランドも手掛けていた。商品提案力には定評があり、「流行に流されない、存在感のある製品を作るのに長けていた」(業界関係者)。しかし、コロナ禍での衣料離れによる売り上げ減少が直撃、6月29日に民事再生法の適用を申請した。
そんな名岐アパレルは、かつても危機的状況に陥ったことがある。1990年代に起きた、GMS各社の経営危機だ。そのあおりを受け、名岐アパレルの多くが淘汰された。
荒波を乗り越えた企業は、GMSに代わって台頭した低価格衣料チェーンや紳士服チェーンとの取引を増やした。その後は、市場が縮小する中でも、各社は自社の取引先との取り組みを強化、棲み分けるようにして生き残ってきた。
しかし、そうして何とか生き残ってきた名岐アパレルを、新型コロナが一気に追い詰めた。名岐アパレルには、ガゼールのようにピーク比で大幅に売り上げを落としていた企業は少なくなく、新型コロナが構造的な問題をあぶり出したともいえる。業界関係者は「名古屋のアパレルは商社機能が中心で、資金力もある企業が多い。だが、岐阜のアパレルはどこも厳しいのではないか」と指摘する。
コロナ禍の昨年も、ファーストダウンは前年の売り上げを確保した。ダウンブームが落ち着いた面はあるが、今後も拡大の余地があるとみる。2019年にはブランドの発祥地であるアメリカで展示会も行っており、今後は海外市場を視野に入れ、アメリカや中国、韓国での展開を目指す。
「百貨店に比べて量販店は品質や価格に厳しい。その中でうちは生き残ってきたし、そこに自信をもっている」(中村社長)。昨年の「アーノルドパーマー」の販売権取得も、自ら店舗を持ち、消費者との接点を直接持つため。新しいブランドとの契約には、当たり外れや自社で在庫を抱えるなどのリスクもつきまとうが、そこに迷いはまったくなかったという。「いまは大きなチャンスでしょ」。中村社長はそう言って笑う。
最終更新日:8/23(月)12:09 東洋経済オンライン