来年120周年を迎えるエンターテインメント集団、木下大サーカス。コロナ禍の影響で5か月におよぶ営業休止期間がありながら、ひとりもリストラせずにさらに観客を魅了している。その背景を取材した。(ライター:中村計/撮影:遠崎智宏/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部、文中敬称略)(敬称略)
木下大サーカスを追っかけ、北海道以外、ほぼ全国を回り尽くしたと話すファンの岩倉誠(52)は話す。
「今、日本には大小含めると、七つくらいのサーカス団がありますけど、規模、質から言っても木下は断トツ。テント内は冷暖房完備、トイレも水洗で、合間合間にきちんと掃除してくれているのでとてもきれい。団員さんも顔を覚えてくれて、私と目が合うと、ウインクしたり、手を振ってくれたりする。ファンサービスも徹底されている。これだけお客さんを呼べるところは、世界を探してもそうないと思いますよ」
平田が指摘した通り、木下には悲壮感のかけらもない。あっけらかんと語る。
「物事はね、悪くなると思ったらどんどん悪くなるし、よくなると思ったら、どんどんよくなるんですよ。要は、信じることができるかどうか。それって、リーダーの資質として、ものすごく大事なことだと思うんです」
とはいえ、先立つものがなければ、いくら信じても立ち行かなくなる。
テントの背後には大阪城の天守閣がそびえる。蝉しぐれが降る夕暮れどきは、日本の夏の風景として、これ以上ないほどの情緒が漂った。ロケーションは木下大サーカスの印象を強める。その記憶が次の大阪公演につながるのだ。
商売のセオリーの二つ目は「根」。根気強く営業活動をするという意味だ。木下大サーカスは1年ほど前から公演場所を見定め、半年前には先乗り部隊の事務所を設置する。そこから地元メディアや企業と手を組み、地道に販促活動を展開する。そこで物を言うのが100年以上かけて築いた人脈だ。木下はこう感謝を口にする。
「私たちと全国の新聞社の間には、長い長い歴史があるからね。コロナで苦しんでるときも、いろいろな新聞社から全部で1000万くらいの寄付金をもらったんです。120年の歴史は大きいよね」
コロナ禍を乗り越えつつあることと同時に、娯楽の多様化と細分化が急速に進む現代において、アナクロなサーカスという娯楽が今も繁栄を維持していること自体が驚きである。
看板団員のうちの1人で、空中ブランコを得意とする柳川陸(24)がその理由をこう分析する。
「映画とかじゃなくて、生で、人間がすっごい危ないことをしているのを見るって、おもしろいんでしょうね。人間って、ハラハラしたいもんじゃないですか。僕も毎日やっているのにいまだに毎回ビビってますから」
最終更新日:8/21(土)10:37 Yahoo!ニュース オリジナル 特集