コロナ禍により地方百貨店のテナント撤退が深刻化するなか、これまでのような「大手アパレル中心」ではなく、地元資本の力を借りて店舗の活性化を図る動きが起きている。なかには個性的な地場店舗の導入をおこなうことで、これまでとは一味違った店づくりを目指す地方百貨店も生まれつつある。
天満屋のように個性的な地元企業を新規テナントとして迎える動きは全国各地でみられる。大分県別府市の「トキハ別府店」には、今年3月に市内のインテリア雑貨店による苔玉専門店「太新」が出店した。
「苔玉」とは苔を使った小さな盆栽や箱庭のようなもので、コロナ禍のなか「室内で楽しめるミニガーデニング」として需要が高まっているという。同店が出店したのは百貨店の顔ともいうべき1階部分の、コロナ禍で需要が減ったことにより撤退した大手化粧品ショップの跡。資生堂やシャネルの店舗が並ぶなか「苔玉」の緑が映える状況は少し不思議であるが、「店のエントランスに苔玉」という意外性もあってか足を止める人は多く、客入りは上々だ。
これに続いて5月には2階に地元に住む複数のハンドメイド作家によるアクセサリー・雑貨ショップ「リミテッドサーカス」が開店。大手百貨店とは一味違う店舗による「ここだけでしか買えない商品」が並ぶこととなった。
トキハ別府店は観光地の一等地という立地を活かすかたちで2019年9月に「地元産」にとことんこだわった自主編集売場を開設するなど大規模なリニューアルを実施したばかり。かつては外国人客が多い百貨店だっただけに、コロナ後には別府らしい、そして日本らしい「おみやげ苔玉」「おみやげハンドメイドアクセサリー」の需要が生まれることになるかも知れない。
かつての百貨店といえば、大手・地方ともに「オンワード」や「レナウン」などの手による画一的なアパレル店や化粧品ブランドを導入することが多かった。しかし、こうした「画一的なブランド」ほどコロナ禍のなか経営規模の縮小を迫られており、さらに縮小のターゲットとなった店舗の多くは「地方百貨店」に出店するものであった。
コロナ禍により変化を迫られることになった百貨店は、今まで以上に「地元との繋がり」を強め、そして「ここだけにない商品」や「地域住民が求めている商品」を集めた店舗へと生まれ変わりつつある。
これまで例を挙げた百貨店以外にも、北東北に展開する「さくら野百貨店」などのように大手アパレルの店舗跡を活用して地場産品の取り扱いを増やすことで「地域の隠れた名品」の発掘に挑もうとする百貨店が全国各地に登場している。
コロナ禍による苦境が続くなか、たとえ新店舗が出店したり、新たな売場を設けたとしても大々的に宣伝できない百貨店もあろう。ひょっとすると、あなたの街の百貨店もこっそりと「進化」を遂げているかも知れない。
<取材・文・撮影/都市商業研究所 若杉優貴>
最終更新日:8/11(水)8:47 bizSPA!フレッシュ