コロナ禍 売れるスイーツ変化

緊急事態宣言中にテレワークが普及し、都市部を中心にビジネスシーンでの贈り物の需要が減少。百貨店では入店客数も昨年から大きく減少している。一方、これをきっかけに、郊外のロードサイドの菓子店には売り上げを伸ばすなど、「勝ち抜け」に成功している店もある。「スイーツビジネス」に起こった変化とは?(ダイヤモンド編集部 笠原里穂)



● コロナ禍3~5月も売り上げ増! 「ロードサイド洋菓子店」人気のワケ

 山梨県甲府市に本社を構え、洋菓子の製造・販売を行うシャトレーゼ。1975(昭和50)年から洋菓子店のフランチャイズ展開を始め、今は全国に500店以上の店舗を構える。そんなシャトレーゼでは、外出自粛で小売り・外食業界が大きな打撃を受けていたコロナ禍の3~5月において、売り上げを昨年対比で2~3割以上伸ばしていた店舗もあったという。

 「学校が休校になっていた3~5月は、夏休みと同じように日々のご家庭でのおやつ需要が高まっていたと思います」

 シャトレーゼ広報室室長の中島史郎氏は、そう振り返る。シャトレーゼの“ウリ”は、地元の契約農家や農場から直接仕入れた原材料を使って自社工場で作ることで、安心・安全な菓子を手頃な価格で提供できることだ。こうした同社の特性が、「日々のことだからリーズナブルなもの、かつ家族の健康のことを考え、『添加物をなるべく使わない』といった原材料にこだわった商品を選びたい」というコロナ禍の中における消費者のニーズにも合致したのではないかと、中島氏はみている。

 加えて、売り上げ好調の大きな要因といえるのが、「立地」の優位性だ。3~5月、ショッピングモールに含まれる店舗はモールの営業事情に合わせて休業せざるを得なかったが、シャトレーゼ店舗の大半を占める郊外のロードサイド型の店舗は営業を続けることができた。そうした店舗には駐車場が併設されているため、顧客は自家用車で店を訪れ、わずかな滞在時間で商品を買うことができる。遠出をするのがはばかられる時期にも、自宅近くの店舗であれば来店のハードルが下がる。こうした買い物をする上での安心感も、来店を促進する要因になったといえる。

● アフタヌーンティーが好調 食べる場面の変化でECシフトも

 一方、外食においては、スイーツが「新たな需要喚起」に一役買っている。

 渋谷のレストラン「レガート」では、7月から始めた「アフタヌーンティー」のプランが人気を集めている。もともと、近隣企業で働く人のランチや飲み会、企業が主催するパーティーなどのニーズが大きかったという同店。コロナ禍でそうした需要は大きく減少。どのように新規顧客を呼び込むかが課題となる中、ディナーまでのアイドルタイム(非稼働時間)を利用し、アフタヌーンティーの提供を始めた。まだ売り上げの柱とまではいかないが、滑り出しは好調だ。少人数の女性同士の顧客を中心に、週末にはアフタヌーンティー用に割り当てた景色の良い窓側席は予約で埋まる。

 同店を運営するグローバルダイニングの広報・平田裕子氏は、「外食したいけれど、夜の飲み会はまだ不安、というお客さまの声にも応えられているのではないか」と話す。

 店内のゴージャスなインテリアや景色の良さも相まって、インスタグラムなどSNSでの投稿も多数されていて、宣伝効果も抜群だ。旅行やレジャーが制限されている中、外食において「非日常的な空間を楽しみたいというニーズが高まっていると感じる」(平田氏)。

 また、「スイーツを食べる場面」に変化が起こっている例もある。

 高価格帯のポップコーンブランド「ヒルバレー」を展開する日本ポップコーンでは、百貨店などに入っているリアル店舗の営業や映画館など法人への卸売りを行っているが、緊急事態宣言下では百貨店や映画館の休業に伴い、そうした需要が蒸発してしまった。代わりに大きく成長したのが、EC(電子商取引)事業だ。日本ポップコーンでは2016年からECでの販売を開始していたが、今年2~7月においては売り上げが昨年対比で2倍以上伸びた。

 日本ポップコーンの上田顕代表取締役社長は、コロナ禍において自宅で映画やテレビなどのエンタメを楽しむ時間が増えたことが、EC需要拡大の大きな要因とみている。

 「もともとはお土産で買うお客さまが多かったですが、コロナ禍ではそうした用途よりも自宅で楽しむニーズが高まったと感じます。家で少しぜいたくをしたいという人に選ばれているのではないでしょうか」(上田氏)

● コロナ禍のスイーツ戦争 明暗を分けるものとは?

 スイーツ需要の変化を読み解く上でまず注目したいのは、「人の流れ」の変化だ。

 緊急事態宣言中にテレワークが普及し、都市部を中心に対面での商談や打ち合わせの機会が減ったことで、ビジネスにおける贈り物の需要が低下。旅行や出張に行く人も激減した。観光庁の統計によれば、今年4~6月の日本人国内旅行消費額(速報)は前年同期比83.3%減となった。インバウンド需要も蒸発。土産菓子の売れ行きが低調であることも想像に難くない。

 一方で、在宅時間が増えたことによって、家で食べるスイーツの需要は高まった。食品やスイーツ業界に詳しい船井総合研究所地方創生支援部地域食品グループマネージャーの横山〓洙(よこやま・ふみあき、〓の文字は王へんに文)氏は、「七夕や十五夜など歳時記イベントの売り上げが例年より増加した」と指摘する。

 また、「人の流れ」にも関わるが、シャトレーゼの例で見たように「立地」の条件も業績を左右する大きな要因になっているといえる。とりわけ緊急事態宣言中は、外出自粛の影響で行動範囲が自宅付近に限られる人が多かった。ベッドタウンである郊外に位置する路面店は、感染リスクに警戒する中でも「行きやすい店」として消費者のニーズに応えることができていたようだ。

 緊急事態宣言の解除以降も、テレワークをする人が一定程度いることから、こうした「行きやすい店」のニーズは引き続き高いといえるだろう。一方で、駅構内や百貨店の中といった、会社への通勤が当たり前だったコロナ前は立ち寄るのに便利だった場所も、今はその利点を生かしづらくなっている。

 日本百貨店協会が発表する「全国百貨店売上高概況」によれば、8月における東京地区の百貨店の入店客数は前年比44.5%減となった。商品別に売上高を見てみると、東京地区の百貨店における「菓子」の売上高は同36.6%減だった。緊急事態宣言下の4月は入店客数が前年比84.8%減、菓子の売上高は79.3%減だったことを踏まえると、回復傾向にあるといえるが、依然厳しい状況が続いている。

 店内飲食を伴う飲食店では、飲み会や会食の減少で蒸発した売り上げ分をどう補うかが大きな課題となる中、新規顧客を引き付ける手段の一つとしてスイーツへの期待がさらに高まる。

 成功の鍵は、「(コロナ禍の中でも)わざわざ行きたい、行かないと食べられない、撮れない、体験できないメニュー」にあると横山氏。例えば、客の目の前でマロンクリームを絞ってモンブランを完成させる“実演付き”メニューを提供する専門店も好評だ。

 席の間隔を保たなければいけないため、客数を増やすハードルは高い。付加価値を高めることで客単価をアップさせることが、飲食店における利益確保の得策だ。

 コロナ禍で起こった生活の変化をきっかけに、スイーツビジネスの商機にも変化の兆しが見え始めている。

 ◇連載:#コロナとどう暮らす
この記事はダイヤモンド・オンラインとYahoo!ニュースによる共同企画記事です。新型コロナウイルス感染拡大の影響を大きく受けた外食産業。飲食店の動きやトレンドの変化を通して、ポストコロナ時代の「食ビジネス」のあり方を考えます。

最終更新日:10/22(木)12:56 ダイヤモンド・オンライン

引用:https://news.yahoo.co.jp/pickup/6374388

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