五輪 スポンサー企業に逆風も

東京五輪はスポンサー企業に五輪の健全なイメージに影が差した現実を突きつけた。新型コロナウイルス禍の中、一都市に多くの人々が集まる祭典は感染リスク拡大を伴う。東京五輪では組織委員会の不手際も相次ぎ、最高位スポンサーのトヨタ自動車は五輪と距離をとる動きもみせた。来年の北京冬季五輪は人権弾圧問題を抱える中国での開催で、スポンサー企業に降板を迫る声もある。大会を資金面で支えるスポンサー企業への逆風は、商業化が批判されてきた五輪と企業の関わりを変える可能性をはらむ。

「世界の方々に喜んでもらえる五輪になるよう、トップ(最高位)スポンサーの一員として全面的に支援したい」

トヨタ自動車の豊田章男社長は昨年3月27日、記者団の質問に力強く答えた。新型コロナ感染が世界に広がり始め、東京五輪・パラリンピック開催の1年延期が決まった直後のことだ。

しかし約1年4カ月後の今年7月19日、トヨタは五輪に関するテレビCMの国内放映や、豊田氏ら関係者の開会式出席を見送ると表明した。海外でのCM放送や自社サイトでの五輪関連の情報発信は続けたが、開催国の最高位スポンサーとしては異例の決断だった。

「色々なことが理解されていない五輪になりつつある」

長田准執行役員は報道陣に対し、決断の背景を語気を強めて説明した。

東京五輪では世界中のアスリートの活躍がもたらす熱狂とは裏腹な、「喜んでもらえない五輪」の側面に注目が集まった。準備段階から感染拡大リスクへの不安が渦巻き、組織委ではトップや開会式の楽曲担当者が辞任する混乱が続いた。

トヨタは五輪の理念への賛同から、15年に国際オリンピック委員会(IOC)と最高位スポンサー契約を結んだ。特定の国を代表するイメージが強い自動車メーカーは契約の前例がなかったが、長年続けてきた障害者スポーツなどへの支援が評価されたという。マーケティング戦略に詳しい明治大の大石芳裕教授は「それだけに一連の不祥事には裏切られたとの思いが強かったのだろう」と語る。

最高位スポンサーにはトヨタ以外にも半導体大手インテル、韓国サムスン電子など有力企業が並ぶ。スポンサー料はIOCの予算の18%を占め、73%を賄う放映権料とあわせて五輪を支えてきた。

しかしすでに約半年後に迫った北京冬季五輪に向け、スポンサー企業への逆風は強まっている。

「企業の評判を脅かしてまで、ジェノサイド(民族大虐殺)の最中に行われる(中国での)五輪に関わる価値はない」

米議会で7月27日に開かれたオンライン公聴会。北京冬季五輪をめぐり、議員らは米国の最高位スポンサー5社の幹部に詰め寄った。米政府は中国新疆(しんきょう)ウイグル自治区での少数民族弾圧をジェノサイドと認定。議会では五輪のボイコットを求める声も強まる。

5社の幹部は最高位スポンサーとなった狙いはアスリート支援だとし、「特定の開催国への支持ではなく、特定国での出来事を承諾することでもない」と強調。開催地を変更すべきかと何度も問われた幹部は、「政府が選手たちの参加を認める限り、選手たちを支援する」と繰り返した。

五輪の規模拡大や、放送局やスポンサー企業の意向が運営に与える影響には、以前から「商業化」との批判があった。東京五輪や北京冬季五輪をめぐる混乱は五輪のイメージがさらにもろくなっていることの証左だ。関西学院大の難波功士教授は「高額な放映権料など10年以上前から指摘されてきた問題が東京五輪で一気に噴出した。五輪の広告塔としての役割が転換期を迎えている」としている。(蕎麦谷里志、宇野貴文、ワシントン 塩原永久)

最終更新日:8/7(土)20:00 産経新聞

引用:https://news.yahoo.co.jp/pickup/6400988

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