老舗の活路 スライムとコラボ

ユーモラスな見た目が特徴的な博多銘菓「二〇加煎餅(にわかせんぺい)」を製造販売する東雲堂(とううんどう)は、創業115年の老舗です。6代目の高木雄三さん(46)は、伝統を誠実に守りながら、ドラえもんやスライムなど人気キャラクターとのコラボで逆風だった家業の活路を開き、コロナ禍にも新商品で立ち向かっています。

高木さんは2003年、28歳で専務取締役に就任しました。当初は、肩書の重さで苦労したといいます。「社内で何か発言しても、経験が浅いために説得力がなく、仕事の一つひとつをベテラン従業員に聞きながら進める日々でした」

 大変なのは、社内だけではありませんでした。

 「地元企業が集まる会議やイベントでは、懇親会の席次が肩書で決められることが少なくありません。隣の席に地元財界の重鎮が座り、話題が合わないこともありました。逆に、デパートなどの催事では、同年代の担当者たちとざっくばらんに話したいのに、名刺交換の直後から相手の態度が変わってしまいました」

 それでも30歳を迎えるころには、いい意味で肩の力が抜けて、開き直れるようになったといいます。母やベテラン従業員とも、東雲堂のあり方や、将来像を話し合う機会が増えました。

そこで導入したのが、焼き印の工程も含む全自動の煎餅焼き機です。大阪の機械メーカーと打ち合わせを重ね、にわかせんぺい専用の焼き機を開発しました。

 全自動の焼き機そのものは、業界的にさほど珍しいものではありません。しかし、にわかせんぺいの生地は、砂糖・小麦粉・鶏卵といったシンプルな原材料で豊かな風味を出すために独自の配合がされており、開発は試行錯誤が続きました。金額も2千万円を超える設備投資となり、東雲堂の大きなターニングポイントでした。

 この設備投資で、コラボ商品の幅が大きく広がりました。「コラボの8割ほどは先方からいただく話ですが、うちからどうしてもやりたいと手を挙げることもあります」

 地元の博多祇園山笠(博多の総鎮守である櫛田神社への奉納神事。夏の風物詩で、国の重要無形民俗文化財およびユネスコ無形文化遺産に指定)の仲間との会話から、生まれたコラボもありました。「サンリオとつながりがある山笠の先輩がいて、相談したところ、担当者を紹介してくれたのです」。

 それをきっかけに、17年にサンリオがプロデュースしている「I’m Doraemon」での商品化が実現しました。それは、後継ぎとしての経験を積んだ高木さんが、母も納得の上で社長に就任した年でもありました。「反響は大きかったです。今でも人気商品のひとつですね」

 キャラクターや企業とのコラボは、「にわかせんぺいの焼き印」、「箱のデザイン」、「同封するにわかのお面」を変えるパターンを組み合わせます。予算や販売計画数、実施期間を勘案して、どのパターンにするかを決めます。

そこから高木さんは攻めの姿勢に転じました。Tシャツやキーホルダーなどのオリジナルグッズ「NIWAKA fan」や、にわかせんぺいをクランチに見立てた「にわかせんぺいクランチチョコレート」といった新商品を次々に投入します。「老舗の挑戦」と地元の新聞やテレビで話題を呼び、発売直後に完売となる商品が続出しました。

 クランチチョコレートは、パッケージ表記の「CHOCOLATE」の「L」を「R」と間違えて印刷してしまいましたが、「かえってそれが話題になり、完売してしまいました。重ね重ね申し訳ないです。夏場はチョコレートが溶けてしまうので、涼しくなったら再販を考えています」。

 6月からは、人気ゲーム「ドラゴンクエストウォーク」とコラボした「スライムにわかせんぺい」が発売されました。115年を超えるにわかせんぺいの歴史のなかで初めて、せんぺいの形状変更に踏み切りました。

 反響は大きく、ネット通販では売り出してはすぐに完売の繰り返しでした。JR博多駅構内など実店舗でも取り扱うようになりました。

 「専用の焼き機導入に600万円かかるなど、新規の設備投資が必要となり、大きな経営判断でした。まとまった販売を見込んでいたイベントが緊急事態宣言で中止になったり、販売期間も当初より短くなったりと、想定外のことが起きています。でも、少しでも明るい話題が届けられればという思いです」

最終更新日:7/26(月)21:27 ツギノジダイ

引用:https://news.yahoo.co.jp/pickup/6399809

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