宮城県美里町の精密板金加工メーカー、三和工業社長の佐藤隆一さん(36)は2020年秋、妻の父から2代目として経営のバトンを渡されました。入社以降、経営が下向きだった会社で孤軍奮闘しながらも周囲の信頼を得て、慣習の打破や業務効率化を進めて利益率を高め、コロナ禍でも事業を加速させています。
佐藤さんはまず、製品の品質管理の検査を任されました。しかし、当時はわからないことがあっても誰からも教えてもらえず、説明書を読んだり、他の従業員の作業を盗み見たりして、仕事を覚えるしかありませんでした。
「社長の義理の息子が急に入ってきたので、いるだけで嫌われているような冷たい視線を感じていました。でも、それだけ注目されていると思って、一生懸命仕事をしました」
08年、義父が「精密板金加工だけでは立ちいかなくなる」と、機械加工分野への参入を決め、設備投資を行いました。そのタイミングで、リーマン・ショックが起こり、経営は悪化して取引先が大きく減少。80人ほどいた従業員も半分になりました。
翌09年に設備が搬入されると、佐藤さんは機械加工の新規事業も任されました。機械加工架台やフレームなどを生産し、板金、機械加工、製缶溶接、塗装までの一貫生産でまとめて受注できるようになったことで、メーカーとの取引が増えていきました。ただ、この時も周りの助けは得られず、毎日深夜まで働いていました。
佐藤さんは、入社当時からの慣習に疑問を持っていました。「顧客が設計図の納期を守らないことが少なくありませんでした。それに伴って、加工メーカーである私たちの側も、製品の納期が厳しくなることが多かったのです」
また、業界全体の傾向として、製品の単価が低く、顧客が大きくなるほど価格の安さを求められていました。佐藤さんは「納期を守れば顧客の信頼を取り戻せるし、付加価値として一定の価格水準を保てる」と考え、納期順守と短納期への挑戦を決め、低価格を求める顧客の契約を全て断ち切りました。
佐藤さんは同時に、作業の合理化も進めました。例えば、社内で15年間、使いこなせていなかった生産管理システムを稼働させ、作業工程や品物の現在地、納期などを一元管理できるよう整備しました。無駄な作業がなくなり、納品までのスピードが上がり、従業員の残業も減らせました。
佐藤さんは20年10月、2代目社長に就任しました。それまで消極的だった設備投資を進め、1億数千万円かけて最新式のレーザー加工機を導入しました。自動運転機能を備えているため、従業員の夜勤を減らせたほか、タブレット端末でも操作が可能で、自身が現場にいなくても遠隔で従業員をサポートできる態勢を作ることができました。
さらに、就任直後には経営指針発表会を初めて開き、各部署に1人ずつ管理職を設ける組織改革を行いました。佐藤さんが1人で抱えていた仕事を、管理職にも任せることで、従業員が自主的に提案して動くようになり、成長につながりました。
「仕事を任せる勇気も必要だと学びました。1人で悩まず、仲間を作ることが大切だと思います」
妻の瞳さんも、佐藤さんが専務になった時に家業に入り、社長就任と同時に取締役に就きました。現在は経理や労務を担当し、コロナ関連の補償金の申請も1人で行うなど、二人三脚で歩いています。
佐藤さんは「妻には、あえて給料明細を従業員に直接手渡してもらっています。私には言いにくいことを話せる環境を作るため、社員とのパイプ役になってもらうようお願いしています」と話します。
先代のまなざしの変化も感じています。「実の子だと遠慮もあり、取引先を入れ替えるなどの大胆な施策は難しかったかもしれません。でもそれを実行してきたからか、今は義理の息子ではなく、経営者として接してくれているように思います」
佐藤さんが目指すのは、ものづくりを通して地域全体を盛り上げる会社です。「板金加工と機械加工の両方を掛け合わせることで、最適な加工方法をお客さんに提案できるのがうちの強みです。その強みをいかしながら、他の製造業と地域に貢献していきたいです」
生まれ育った場所を離れ、未知の世界に飛び込んだ2代目は「とりあえずやってみっぺ!」の精神で、奮闘し続けます。
最終更新日:7/22(木)22:15 ツギノジダイ