ミスから出直し 社長の大胆な策

山形県酒田市の楯の川酒造6代目社長・佐藤淳平さん(42)は、日本酒の販路を海外に広げ、同業の酒蔵を傘下に収め、ワインやウイスキーの製造にも手を広げています。日本酒を軸にしつつ、大胆な多角化を進める背景には、失敗を元に作り上げ、従業員に浸透させたフィロソフィー(哲学)がありました。

ーービジョンを明確にしたことで、社内はどう変化しましたか。

 これまで、蔵の中は職人気質でクローズドな業種だったので、「見て盗め」という感じでした。今までは情報の共有がありませんでした。ブラックボックスを壊し、社員のノウハウやスキルをオープンにすることで、会社に蓄積されるようになりました。

 社風も以前は曇った感じでしたが、今はだいぶ風通しが良くなったと思っています。継いだときは数人だった従業員数も、今では60人になりました。

ーーコロナ禍以前から、積極的にリモートワークを取り入れていると聞きました。

 リモートワーク導入は、07年ごろからです。もともと、地元以上に、首都圏や海外向けの営業人材が必要だったことが、きっかけです。広報担当の社員もいますが、本社に来るのは年1度の蔵開きイベントの時だけです。2020年からは、チャットツールの「Chatwork」を活用しています。オンラインでコミュニケーションを取ることの不具合は、特に感じていません。

ーー12年には、山形県鶴岡市で「奥羽自慢」を製造している蔵元を、傘下に収めました。

 同社の前経営者が病気で倒れ、酒造りが出来なくなってしまっていました。その話を聞いて、酒造り再開のお手伝いと事業の引き継ぎを行いました。酒蔵が無くなっていくのは忍びないし、基本的に酒造免許を新しく取ることは難しい現実もあります。楯の川酒造を再建してきた自負もあったので、同業に横展開できればとも考えました。

 以前は、普通酒ばかりの蔵でしたが、純米と純米吟醸、純米大吟醸にシフトしています。主力製品は、特別純米酒の「吾有事(わがうじ)」で、海外でも売り出し中です。20年6月に黒字化し、今期の売り上げは前年比5~6割増の予定です。小さな酒蔵なので、売り上げは3億円ぐらいが上限と思っています。

ーーリキュール、ワイン、ウイスキー。なぜここまで大胆に手を広げられるのでしょうか。

 時代によって人の嗜好も変わるからです。日本酒という主軸は必要ですが、日本産の酒類にこだわって世界展開していきたいと考えております。

 8年後には50歳になります。経営者として30年になるので、社長は優秀な方へバトンタッチするつもりでいます。

ーー後継者は決めているのでしょうか。

 誰が継ぐかはまだ決めていません。娘が2人いるのですが、まだ小さいですし。

 創業家の意思をそのまま反映できるのは、ファミリービジネスのメリットです。何百億、何千億の企業になればそうはいきませんが、小さい企業を長く続けるならファミリービジネスがいいと思います。

 ただ、今はそこからの脱却も考えています。8年後までには、新規株式公開(IPO)できる体制に持っていきたい。成長フェーズに入るために、外部から社長を迎え入れることも考えの一つだと思っています。

最終更新日:7/13(火)19:00 ツギノジダイ

引用:https://news.yahoo.co.jp/pickup/6398626

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