職人の技術と女性の感性を融合した新ブランドを立ち上げ、注目を集めている町工場が静岡市にあります。もともとは工場用機械部品を手掛けていましたが、2代目の母、そして3代目の娘がヘアアクセサリー「KANZASI(かんざし)」を開発し、BtoCビジネスのきっかけをつくりました。
当時、山崎製作所は黙々と職人が作業をする職場でした。
山崎さんは、ワンマン経営者のもと、言われたことだけをやる、指示待ち社員の集団であることに課題を感じていました。そこで、真っ先に取り組んだのがコミュニケーションの改革です。
「社員たちに心を開いてもらい、風通しの良い環境をつくるためにはどうしたらいいかと考え、コミュニケーション研修を始めました。ファシリテーターの講師を招き、ゲーム形式の自己紹介を通じて、プライベートな話をしたり、自由に意見交換したりする機会を設けました」
社内コミュニケーションは大きく変わりました。社員発のプロジェクトチームが生まれたり、5S活動やISO取得への取り組みが自主的に行われたりするようになりました。また、会社のことを自分事として捉える社員が増え、それが社風となり、新入社員にも伝播していきました。
また、同社の製品は単品多品種生産です。複雑な生産工程をアナログで管理していることにより、無駄な作業が生まれていることがわかりました。
そこで、受注から出荷までを一元管理する「生産管理システム」を導入するなど、一気にIT化を進めました。これらの設備投資のために1億円を超える借入れという大きな決断もしました。
こうした改革が功を奏し、承継から2年でV字回復を実現。その後、一貫して黒字を維持しています。
自社製品を広めたいという思いはあっても、広告費を出す余裕はありません。そこで、山崎さんは社長ブログを開設し、地道に情報発信を続けているうちに、新規の顧客が舞い込むようになりました。
東京ギフトショーやインテリアライフスタイル展などの展示会に出展することで、新たな出会いも生まれました。展示会をきっかけに、東京の百貨店や専門店にも販路を拡大。サンリオとのコラボレーションで、ハローキティの髪飾りの企画が実現しました。
2019年には「TOKYO GIRLS COLLECTION」にて、「KANZASI」をモデルが着用。全国各地でイベントを開催するなど、活動の場を広げています。
現在、「三代目板金屋」の売り上げの割合は全体の10%ですが、2020年3月に全国放送のテレビ番組で特集されると、売り上げが急増。顧客から喜びの声が届くようになり、「商品を見せてほしい」と工場を訪れる人も増えました。
こうして、職人たちにも光が当たるようになったのです。
「今後の目標は、時代の流れや景気に左右されない会社にしたい。そして、喜んで継いでもらえるような魅力ある会社にしていきたいです」
「三代目板金屋」という名前には、板金加工の未来への思いを込めています。板金のさらなる可能性を追求し、次世代へ引き継ぐため、山崎さん母娘の挑戦は続きます。
最終更新日:7/7(水)8:52 ツギノジダイ