日山畜産(東京都)は東京食肉卸市場を拠点に、高級肉の卸売りを手掛けています。4代目の村上聖さんは、大学院で経営学修士(MBA)を取得し、経営のスリム化を実現。自社の強みの「目利き力」を生かすため、1頭ずつ違う牛肉の味を、顧客に分かりやすく伝える仕組みも構築しました。
「もともと勉強が嫌いだった」と言う村上さんでしたが、16年にMBAを取得するまでの2年間は、マーケティングから経営論まで、徹底して学びました。
「夜に大学院で勉強したことを、翌日直属の上司に報告して話し合い、出てきた疑問をまた教授にぶつける。そんなインプットとアウトプットを、同時に行いました。人事、マーケティング、営業など色々な課題と事例について学びました。それをうちの会社に当てはめて、うまく実務とすり合わせることができたのがよかったです」
村上さんはMBAを取る過程で、経営者として一回り大きくなりました。「MBAで役に立ったのは細かい知識ではなく、会社はどういう方向に持っていくか、何を大切にしていくかといった指針を明確にできたことでした。自社の強みを明確にして、ブランディングしていく。同時に売り上げや利益も大切にしなければならない。そんな課題を一緒にMBAで学んだ仲間に相談したり、卒業後も教授に相談できたりする環境が大きかったです」
「視野を広く持って課題解決の糸口を探せるようにもなりました。また、2年間一緒に経営を学んだ、年齢も経歴も異なる、利害関係もない仲間と出会えたことも大きいです。今でも経営課題について相談することがあります」
和牛には1頭ずつ個体識別番号が付けられており、いつどこで生まれて育てられ、食肉になったかなどが調べられます。村上さんは社長就任後、こうしたトレーサビリティー(生産履歴の管理)の取り組みを、さらに進めるために同社のサイトで「日山ノート」を始めました。
日山ノートには熟練のスタッフが実際に試食して確かめた、味の評価を記録しています。同じ環境で育てられた牛でも、あっさりしていたり、濃厚だったり、香りがあったりなど特徴が異なります。そんな牛肉の味の個性を言語化して記録するのです。
「我々のコア・コンピタンス(他社にはまねできない自社の強み)は、肉の『目利き力』だと思います。和牛は1頭ずつ競りにかけられますが、それは牛によって差が大きいからです。同じA5(等級)の牛肉でも、キロ2千円が付く時や、5千円が付く時があり、味も違います。競りには肉のことと、営業面の両方がわかるベテランの取締役が参加して、買い付けを行っています。そして目利きが選んだ、味の違いをしっかり伝えようと始めたのが、日山ノートです」
最終更新日:7/2(金)22:26 ツギノジダイ