謎マナーの元凶?マナー講師困惑

「ビールのラベルは上にして注ぐべし」「ハンコは隣の上司に向けてお辞儀をしているように傾けて押すべし」など、世の中には「謎マナー」と呼ばれる暗黙のルールが存在する。コロナ禍の現在、オンライン会議での新マナーも取り沙汰されている。もしかしたら日本は「マナー大国」なのかもしれない。ではそもそも「マナー」とはいったいなんなのだろうか。ビジネスマナーや食事のマナーに、冠婚葬祭、他人への気配りまで、多岐にわたるマナーの普及に努め、企業研修などでも活躍する“マナー講師”に、取材した。(取材・文:山野井春絵/撮影:殿村誠士/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)

こうしたオンライン会議における「謎マナー」のほかにも、Mさんが気にかけていることがある。それは、部下とのコミュニケーションだ。

Mさんは、この4月から新人育成の一環として業務のトレーナーも務めることになった。マイクロソフト社のアプリTeamsを利用し、ファイルを共有しながら講義を進めているのだが……。

「礼儀正しくて真面目なんだけど些細なことながら気になるところがあるんです。でも直接会っているわけではないので指摘しづらいんですよね。細かいことかもしれませんが、日によってカメラをオン・オフするのが気になってます。お化粧が間に合わないとか、理由があるんだとは思いますが、そこも突っ込みにくい時代です……」

Mさんは「チームメンバーと話す際は、カメラはオンにすべき」だと考えている。

「私が古いんですかね。声だけでは相手の気持ちがつかみきれないから、せめて顔を見ながら話したいと思ってしまう。コロナ以前なら、ふと世間話をして距離を縮めることができたんですけどね……」

仕事上のオンラインでは、カメラをオンにすべきである。さて、これは新たに生まれたマナーだろうか。それとも、謎マナーの一環なのだろうか?

NPO法人「日本サービスマナー協会」認定マナー講師、上田由佳子さんは、これまで多くの企業でマナー講義を行ってきた。

オンライン会議でのマナーについて、上田さんはどのように指導をしているのだろうか。

「画面上の配置は、いわゆる“謎マナー”なのかもしれません。画面上の席次にこだわる方もいらっしゃいますが、そこまで気にする必要はないと考えます。話している人がきちんとわかるような配置にすることを重要視した方が良いでしょう。それよりも、主催者が時間を守ること、また参加する人たちは会議を中断させないよう事前にネット環境を確認しておくことなどが、マナーとしては大切なのではないでしょうか」

会議終了時も主催者がタイミングを見計らってさっと終わらせれば、部下がつむじを画面に向け続ける必要もない。また、カメラのオン・オフについては、こんな意見だ。

「オンラインでも、できる範囲で顔出しするのがマナーとしてはいいのかな、と私は考えています。これまでは出社して必ず顔を合わせてきたわけですから。バーチャル背景やお肌をきれいに見せる機能もあるので、そういったものを駆使されるといいですね。ただオン・オフは、企業や部署によって、認識が違います。上司の方々がオフでいきましょうとおっしゃれば、オフでいいですよね。そのあたりは、柔軟に。いいとか悪いとかいうことではなくて、中にはオフにすることを印象として残念に思う人がいる、ということを知っておく。どのシーンでも、自分が相手にどういう印象を与えるか、という想像力が大切です」

オンラインは、対面に比べて微妙な空気感が伝わりづらい。特にあまり接したことがない人とやりとりをする場合、コミュニケーションはさらに難しく感じられる。

「カメラがオンの場合では、自分の表情を、対面よりも大きめに表現するのがコツですね。オフならば、音声表現に気をつけたいところです。表情が見えない分、威圧的に聞こえてしまったり、逆に弱々しく感じられたりと、印象悪く受け取られる可能性もあります。相手の反応を意識しつつ、自分の言葉に注意したいですね」

NPO法人日本マナー・プロトコール協会理事長の明石伸子さんはマナーの本質を「人とのコミュニケーションを円滑にするためのコツのようなもの」と話す。明石さんは、CA、役員秘書、企業コンサルタントなどを経て、数多くの政治家、企業家などのイメージトレーニングも手掛けてきた。しばしばマナー講師が“謎マナー”の元凶とされることについても「実像とは違ったマナー講師のイメージが社会の一部に浸透していて、それはとても残念」と話す。

「皆さん考え方が違うように、マナーもそれぞれ。ただ、そこに知識が足りないと、相手への配慮を欠いてしまうこともある。知識を踏まえた上で上手に心を伝えられるようになりましょうということで、マナーについての考え方を整理してお伝えしています」

明石さんも、前出の上田さんも、マナーの基本は相手への配慮であり、「まずは挨拶が大切」だと声をそろえる。

「日本人は挨拶が苦手です。でも、挨拶はコミュニケーションのきっかけ。自分から笑顔で挨拶をすることで、相手の心をほぐし、ビジネスをスムーズにします」(上田さん)

「マナーに正解はありません。状況や相手に応じて考え、判断することこそがマナーの本質です。まずはきちんと相手の目を見て挨拶ができること。そして、必要な知識と判断の基準を持って、過不足のない対応を心がければ、ビジネスもプライベートも、もっと心地よくなるのではないでしょうか」(明石さん)

アフターコロナ時代のマナーは、今後どのように変化していくだろうか。「謎マナー」に振り回されることなく、良好なコミュニケーションを図れるかどうかは、私たち一人ひとりの意識にかかわっているといえそうだ。

最終更新日:6/29(火)9:20 Yahoo!ニュース オリジナル 特集

引用:https://news.yahoo.co.jp/pickup/6397324

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